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避けて通れぬ『スパイ防止法』への議論【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

2020/9/7 10:31 FISCO
*10:31JST 避けて通れぬ『スパイ防止法』への議論【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】 米国のトランプ政権は7月24日、テキサス州ヒューストンの中国総領事館を閉鎖させた。米政府高官は、「中国は米国内の在外公館を通じてスパイ活動など悪意ある行動に従事しており、ヒューストンの中国総領事館が関与していた活動は米国が容認できる範囲を超えていた」との認識を示した。日本でも中国による同様の活動は行われていないのか。日本には『スパイ防止法』が存在しないが、果たして日本の国家機密情報は守られているのだろうか。 日本では、今年に入って複数のスパイ事件が発覚している。1月20日には、三菱電機<6503>防衛部門へのサイバー攻撃が発生、企業秘密が流出した。1月25日には、ソフトバンク<9984>社員がアントン・カリニン・ロシア通商代表部元代表代理に機密情報を漏洩し、不正競争防止法違反で逮捕された。2月6日には、「神戸製鋼所<5406>が保有する潜水艦や魚雷の製造技術に関する情報が漏洩した可能性がある」と防衛省が発表した。 日本は、「スパイ天国である」といわれている。日本には最先端の科学技術や世界中の情報が集まる一方で、スパイ活動をしても捕まりにくく、捕まっても重刑を課せられないからである。米国に亡命した旧ソ連KGBの少佐は「日本はKGBにとって、もっとも活動しやすい国だった」と、韓国に亡命した元北朝鮮工作員は「昔から北朝鮮の工作員は日本に潜入し、在日朝鮮人をスパイに仕立て上げ、日本から多くの情報を吸い上げ、軍事強化に活用してきた。そして、今もスパイ活動は継続されている」と証言した。 初代内閣安全保障室長を務めた佐々淳行氏は在職中、「我々は精一杯、多くのスパイを摘発してきた。しかし、いくら逮捕・起訴してもせいぜい懲役1年、しかも執行猶予がついて、裁判終了後には堂々と大手をふって出国していくのが実態だった。どこの国にでもある『スパイ防止法』がないため、国家に対する重大犯罪であるスパイ活動などを出入国管理法、外国為替管理法、旅券法、外国人登録法など刑の軽い特別法や一般刑法で取り締らされ、事実上、野放し状態だった」と回想している。 世界各国には『スパイ防止法』が存在し、諜報機関を設けて取締りを強化している。例えば米国ではCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)、イギリスではMI5(保安局)やMI6(秘密情報部)、フランスではDST(国土監視局)やDSPD(国防警備保安局)、ロシアではGRU(連邦軍参謀本部情報総局)などがスパイの摘発を行っており、スパイ罪の最高刑として死刑や終身刑などの重い刑罰が課されている。 日本では1985年に『スパイ防止法案』が廃案になった経緯がある。国家の管理が強すぎると「戦前の特高警察のようになる」との戦時中の反省から、憲法が保障する表現や報道の自由に抵触する恐れがあるというのが、当時廃案となった理由であった。その後、2014年12月、「特定秘密保護法」が施行された。この法律は、我が国の安全保障に関する機密情報のうち、特に秘匿する必要のあるものを「特定秘密」に指定し、取扱者の適正評価や漏洩した場合の罰則を定めている。主に「特定秘密」を取り扱う公務員を処罰の対象としているが、公務員以外でも「特定秘密」であることを知っていたうえで、不当または不正に取得した場合にも処罰の対象となる法律であり、最高刑は10年以下の懲役および1,000万円以下の罰金が科せられる。 自衛隊でも、「特定秘密保護法」施行以前に情報漏洩事件が発生している。2007年1月、神奈川県警は、海上自衛隊の護衛艦乗組員の中国籍の妻を入管難民法違反容疑で逮捕した。家宅捜索したところ、イージス艦の迎撃システムなど800項の機密情報を含むファイルが発見された。中国人と結婚した自衛官は現在500人を超えており、その中には幹部自衛官も含まれているという。また、同年2月に防衛庁(現防衛省)技術研究本部の元技官が在職中に潜水艦の資料を持ち出し、中国に情報を漏洩したことによる窃盗容疑で書類送検された。 「スパイ防止法」は、国連憲章第51条で認められた独立国の固有の権利で、安全保障に関する国家機密を守り、他国のスパイ活動を防ぐのは自衛権の行使として当然の行為とみなされている。1985年当時のように「表現や報道の自由」に制約を受けるということが反対理由ならば、西側自由主義陣営の状況を鑑みるに、そこには錯誤があるようにも思える。昨今の中国の覇権主義的な力による現状変更に対し、米国、イギリスをはじめインド、オーストラリア、ASEAN各国と連携を深め、今後ファイブアイズとの情報共有という事態にも備えて情報管理の信頼性を向上させるためにも、「スパイ防止法」制定の議論は避けて通れないだろう。 《RS》
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