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国家の覇権論を振り返る
2020/6/11 15:10
FISCO
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*15:10JST 国家の覇権論を振り返る 米中関係は、貿易摩擦、5G(次世代高速通信規格)をめぐる技術面の争い、新型コロナウイルス感染症対応への非難、さらには香港への「国家安全法」制定など、対立が多岐に渡り先鋭化している。覇権国がアメリカから中国に移るのではないか予測する学者やメディアも現れている。覇権論とは、圧倒的な力を持つ国家が国際社会のリーダーとして国際秩序を形成・維持し、国家として発展する理論のことである。覇権国の存在が世界に安定をもたらすと考える「覇権安定論」、覇権国は周期的に現れると考える「長期サイクル理論」、最後に覇権国は移行し続けると考える「パワー・トランジション論」についてそれぞれの主張をみてみよう。 「覇権安定論」の生みの親とみなされているチャールズ・キンドルバーガーは、1973年の著書「大不況下の世界1929-1939」で、世界恐慌をもたらした経済的混乱は、それまで覇権国だったイギリスが国際政治の危機を管理する能力を欠いたことに加え、後に覇権国となるアメリカのリーダーシップが不足していたためとしている。また、「世界政治における戦争と変化」を著したロバート・ギルピンは、この論に続いて、軍事と経済の関係から覇権論を理論化した。「ある国家が覇権国として存在するとき、国際システムは安定する」という考え方である。覇権国は、自分に都合の良い国際システムを構築し、巨大で成長する経済、圧倒的優位に立つ技術および遠方展開可能な軍隊を保有する。軍事、経済で台頭してきた挑戦国が勝利する場合には、その国にとって都合の良い国際システムを再構築する。挑戦国が既存の国際システムを継続する場合には、イギリスからアメリカに覇権が遷移したように戦争にならない場合があるという考え方だ。 これに対し、ジョージ・モデルスキーは国際秩序の構築と主導的役割を果たす大国が、周期的に次々に交代してきたとみる「長期サイクル理論」を主張した。約100年に1度、世界的広がりをもった1世代ほどの長期間にわたる相当に激しい戦争の後、ある1つの国が世界指導国としての地位を保つようになる。新しく登場した大国は、世界システムを管理していくためのリーダーシップを発揮し秩序を維持していく。覇権国になるための条件としては、島嶼、半島国家であり安全保障体制が堅固であること、強大な海軍力を保有し世界戦争に勝利できる力を有すること、経済大国で、安定性と開放性を有し、人々を引き付ける魅力ある国家であること、とした。 覇権国は移行し続けると考える「パワー・トランジション論」を提唱したのが、A・F・K・オーガンスキーである。パワー・トランジション論は、覇権国の力は永続的でないと考えるところから始まる。覇権は永続的でないため、覇権国が規定した国際秩序の安定はいつか終わりを告げる。覇権国が衰退し、新興の大国がそれまでの覇権国にとって代わるという主張である。この時、考えられるシナリオは、新興国が既存の国際秩序に不満を抱き、覇権国と対立・戦争する場合と、既存の国際秩序に包含され平和的に遷移する場合に分かれる。後者は、イギリスの構築したシステムを踏襲し覇権国になったアメリカの例が当てはまる。 その他にも、ジョセフ・ナイは、覇権国になるには、軍事力、経済力、人口というハードパワーと文化や価値観といった他国を引き付けるソフトパワーを合わせたスマートパワーが必要だとしている。現在の中国の台頭が経済・軍事両面における台頭であるという点において、今後、覇権の交代が行われるのか、アメリカは覇権の地位を維持できるのか。もし覇権が遷移するのであれば、どのようなシナリオになるのか、どちらがスマートパワーを有しているのか両大国の動静が注目されるところだ。 《SI》
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