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全人代開幕日決定から何が見えるか?(2)【中国問題グローバル研究所】

2020/5/8 15:25 FISCO
*15:25JST 全人代開幕日決定から何が見えるか?(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。 ◇以下、遠藤 誉所長の考察「全人代開幕日決定から何が見えるか?(1)【中国問題グローバル研究所】』の続きとなる。 ——— 決定的なのは、国務院を総動員した対コロナ戦略巨大機構「聯防聯控機構」は、習近平がまだ雲南にいた「1月20日」には立ち上げられていたということである。 つまり、李克強は習近平に「重要指示」を出させると同時に、国務院の全行政省庁に呼びかけて「緊急対コロナ戦略部隊」を作り上げたということなのである。 それからの「聯防聯控機構」の活躍ぶりには目を見張るものがある。 連日連夜、数十回にわたって会議を開き、孫春蘭も李克強もあの危険な武漢に現地入りし、コロナ収束までに数十項目の政令を発布し続けて、コロナの難関を乗り切った。 この間に最も重要視したのは習近平の指示ではなく、あくまでも「本気でコロナを殲滅する」という気概に燃えた免疫学の最高権威・鍾南山(学者で医師)の警鐘だった。 この経緯に関しては3月18日の論考<中国はなぜコロナ大拡散から抜け出せたのか?>(※2)に詳述した。 習近平、形無しではないか! しかし、コロナに勝たなければ一党支配体制は崩壊する。民主主義国家のように政権与党が下野すれば野党が新しい政権を作るというようなシステムにはなっていない。中国共産党が永遠の政権与党であり、この政権が崩壊すれば「中華人民共和国」という国家構造が崩壊する。 自分の政権で中国共産党一党支配体制を崩壊させるなど、習近平に選べるはずがない。 したがって、「李克強—鍾南山」が主導する中国全政府による「聯防聯控機構」の実務執行を、習近平は「指をくわえて」見ているしかなかったのだ。 せいぜい彼に出来たのは、武漢に感染の危険が無くなった3月10日に武漢入りして「勝利宣言」を行ったくらいのことである。だから中国の庶民の間では<中国はなぜコロナ大拡散から抜け出せたのか?>(※2)に書いたように「摘桃子(ズァイ・タオズ)(他人の業績を自分のものとして自慢する)」という言葉が流行っているわけである。 習近平は「後出しジャンケン」で「自分は1月7日から警告を発していた」などと強調しているが、それならなぜコロナの危険性を知りながら、のんびりとミャンマー訪問をしたり雲南の春節巡りをしていたのか(詳細は2月16日の論考<習近平「1月7日に感染対策指示」は虚偽か>(※3))。罪はさらに重い。 ◆全人代開幕決定直前に習近平が召集した中共中央の会議 このままで全人代を開催したら習近平の沽券に関わる。 そこで習近平は4月27日に「中央全面深化改革委員会」(※4)を召集した。この委員会のトップ(主任)は習近平で、習近平政権になってから主体を国務院から中共中央に移管している。 この委員会会議を、栗戦書が全人代常務委員会を開催して今年の全人代開催を宣言することになっている4月29日の「2日前」に開催したというのが「ミソ」である。ここに注目しなければならない。 習近平は会議の冒頭で「我が国がコロナ戦に打ち勝つことができたのは、党(中国共産党)の指導と我が国の社会主義制度が優秀だったからだ。それが何よりも重要である」と「自慢げに?」(苦し紛れに?)強調している。 これで通ってしまうのは、さすがに「一党支配体制」だ。 会議では「公共衛生応急物資システムの改善」、「医療保障基金改革」、「創業板改革を行い、審査制から登録制に移行させると同時に実行に移す方案」など多くの項目が審議され決定されたが、中でも注目点は「創業板改革」と言っていいだろう。 「創業板」というのは「中国版ナスダック」や「ChiNext(チャイネクスト)」とも呼ばれ、深セン証券取引所の新興企業向け市場(ベンチャーボード)のことである。主たる目的として「投資の促進による雇用機会の拡大」、「中小企業の資金繰り難の改善」、「次代を担う企業の育成」による中国経済の持続的な成長を達成することなどを掲げている。 上海証券取引所は大企業や外国企業に重きを置き、深セン証券取引所は中小企業やベンチャー企業に重きを置いている。業種別では情報技術とヘルスケアが占める割合が高い。まさにアフターコロナの経済復興には打ってつけだ。 ◆全人代とアフターコロナ 3月10日の習近平武漢入り以降は、中国のコロナ戦は基本的に勝利したとみなして、習近平は専ら「貧困脱却」を日々強調している。これは中国共産党の建党百周年記念である2021年までに貧困層を完全に無くすという「小康状態」を達成するのだという「党の目標」があるからだ。コロナにより達成が困難となりそうなのを、何とか「自分の力」で成し遂げたい。 一方、コロナ戦ではリアル空間ではなくデジタル空間における技術力が抜群の力を発揮した。悪名高い監視社会は感染者の追跡に圧倒的な力を発揮したし、街で人同士が顔を合わせて買い物をする光景を消してしまった。そうでなくとも「現金を入れた財布」を持たなくなった中国では、今後必ず「デジタル人民元」というブロックチェーン技術が経済形態を変えていき、やがて世界の新秩序形成をもたらすだろう。 一党支配体制がコロナ戦を勝利に導いたのではなく、一党支配体制が崩壊することへの恐れが、習近平をして「聯防聯控機構」に従わせたのである。 この関係を深く考察しないと、今後の中国もアフターコロナの新世界秩序も見えてこないだろう。 アメリカの感染者が今もなお爆発的に増加し続けていることは、米中経済戦争にとっては中国に有利に働く。習近平はここに全力を投入しようとしている。これに関しては多角的分析が必要なので、文字数の関係上、またの機会に譲る。 おおむね以上が、全人代開幕決定から見えてきた真相だ。 (本論はYahooニュース個人からの転載である) 写真:UPI/アフロ ※1:https://grici.or.jp/ ※2:https://grici.or.jp/1245 ※3:https://grici.or.jp/901 ※4:http://www.gov.cn/xinwen/2020-04/27/content_5506777.htm 《SI》