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「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(1)【中国問題グローバル研究所】

2023/3/13 10:27 FISCO
*10:27JST 「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)遠藤 誉所長の考察を2回に渡ってお届けする。 3月7日、全人代(全国人民代表大会)で「党と国務院機構改革」という、13項目の改革案が示された。中でも注目されるのは科学技術と金融管理監督に関する改革で、アメリカの制裁と弾圧から逃れて中国が繁栄するための戦略が込められている。 ◆「党と国務院機構改革」全容 3月7日、全人代(全国人民代表大会)第二回全体会議で「国務院機構改革方案」の説明があった(※2)。これは昨年10月に開催された第20回党大会および今年2月に開かれた二中全会(中共中央委員会第二次全体会議)で採決された「党と国務院機構改革方案」に基づいて全人代に提出し審議がなされたものである。 改革案は13項目から成っており、そのうち注目されるのは「科学技術部の再編」や「金融管理監督システム改革」および「国家データ局の新設」などで、特に「科学技術部の再編」と「金融管理監督システム改革」が注目される。 いずれも目標は「いかにしてアメリカによる制裁と弾圧から逃れるか」ということが主眼で、これはすなわち「アメリカによる中国潰しを、中国はいかにして回避し、いかにすれば自国を守れるか」ということになるので、当然のことながら「挙国体制」を布かなければならない。 そのため、国家戦略の根幹をなす「ハイテク国家戦略」は中央行政省庁の一つである「国家科技部」の機能の一部を中共中央も統括的に見渡せるように中共中央に移す。 また金融に関しては、国内改革もさることながら、アメリカがドル制裁を加えてきたときに中国の金融システムが壊れないように予防策を講じている側面がある。そのためか、改革案の7割がたは金融改革に割かれている。 ◆科学技術部を再編して党主導の委員会新設 全人代では、科学技術を以下のように位置付けている。()内は筆者。 ・科学技術はわが国の現代化建設の核心である。国際競争と外部からの弾圧という厳しい形勢において、何としても科学技術という核心的力を敵の力から守りハイレベルを維持できるように、自立自強を実現していかなければならない。 ・このたびの「党と国家機構改革」は党中央の、科学技術活動に対する集中的な統一指導体制を強化するため「中央科技委員会」を設立し、その事務執行機構の職責は再編したあとの科学技術部が担うものとする。 ・科学技術部の機能を強化して、新型挙国体制を促進完備し、科学技術イノベーションの全チェーン管理を最適化し、科学技術成果の転化を促進し、科学技術と経済と社会の結合などの職能を促進する。 ・戦略計画・体制改革・資源の統一的全体計画・総合調整・政策規制・督促検査などのマクロ管理職責を強化する。同時に、国家基礎研究と応用基礎研究・国家実験室建設・国家主要科学技術プロジェクト・国家技術移転システム構築・科学技術成果の転化と産学研連携・地域科学技術イノベーションシステム建設・科学技術監督評価システム建設・科学研究ロイヤリティ建設・国際科学技術協力・科学技術人材チーム建設・国家科学技術表彰などの関連職責は保留し、これまで通り国務院の組成部門とする。 ・科技促進農業農村発展計画と政策は、農業農村部が担う。 ・科技促進社会発展計画と政策は、国家発展改革委員会や生態環境部あるいは国家衛生健康委員会が担う。 ・イノベーション技術発展・産業化計画と政策やサイエンスパーク、科技市場…などは工業信息(情報)部が担う。 ・海外の知的人材を中国に引き寄せるための業務は人力資源社会保障部に帰属させ、「外国専門家局」の看板は科技部から信力資源社会保障部に移転させる。 ・(いわゆる科研費に関して、これまで科学技術部が出していたが、それを撤廃し)再編したあとの科学技術部は科研には関与しない。科学研究のための財政は全て「国家自然科学基金委員会」に帰属させる。(拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』(※3)の第四章に書いたように、「国家自然科学基金会」は「軍民融合」に関する基金を担う機構でもある。) ◆金融監督管理システムに関する改革 改革の内容を一つずつ説明していくと、あまりに膨大になるので、ここではその主要な骨子を列挙するにとどめる。 ・証券業界以外の全ての金融業界の監督管理を一元化するために「国家金融監督管理総局」を設立する。 ・「中国証券監督管理委員会」は、資本市場監督の責任を強化するために国務院直轄機関に再編され、新しい監督管理機構はミクロレベルの市場行為や、金融機関および消費者の権益を監督する。 ・中国人民銀行(中央銀行)は今後、金融持ち株会社や金融消費者保護に対する監督を行わない。 ・中国人民銀行は、専ら通貨政策に関して特化した業務に従事する。これは国際規範に一層近い形になる。(金融監督管理システム改革内容は以上) 以上から以下のようなことが見えてくる。 1.3月8日のコラム<秦剛外相が語る中国の外交方針と日本の踏み絵>(※4)に書いたように、秦剛外相は中国が使用する通貨に関して「国際通貨は、『一方的な制裁のキラー・ツール』になってはならない。そのような危険性をはらむ通貨を使用するのは賢明ではない」と回答している。中国はこのことを、ウクライナ戦争を通して学んだ。したがってアメリカがいつ、台湾を駒にして中国が武力攻撃せざるを得ない方向に持って行くかしれないので、万一の場合に備えて「中国が使える国際通貨を調整する」という業務に専念できるよう、中国人民銀行の負担を減らした。 2.中国にはまだシャドーバンキングなど、不正な貸し出しの抜け穴があり、昨年は河南省の銀行の経営者が預金を持ち逃げするような事件も起きた。またアント・グループの事件など、消費者の利益を損ねるようなことが起きないように総合的に監督管理する必要がある。 「国務院機構改革」が示す習近平の「米国による中国潰し」回避戦略(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。 写真: 新華社/アフロ (※1)https://grici.or.jp/ (※2)http://www.gov.cn/guowuyuan/2023-03/08/content_5745356.htm (※3)https://www.amazon.co.jp/dp/4569853900/ (※4)https://grici.or.jp/4116 《CS》