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中国共産党100年式典をどう見るか、習近平の野望第二弾(元統合幕僚長の岩崎氏)

2021/7/15 9:34 FISCO
*09:34JST 中国共産党100年式典をどう見るか、習近平の野望第二弾(元統合幕僚長の岩崎氏) 本年7月1日、北京で「中国共産党創立100周年記念式典」が行われ、この式典の模様が欧米や我が国に於いて報道された。今回の式典に関する分析・評価が各所で行われているが、確りとした評価には少し時間がかかるであろう。今回は、この中国共産党創立100周年記念式典に関しての現段階における私の率直な意見を申し上げたい。 中国共産党が立ち上げられたのは、1921年7月23日である。しかし、最近は創立記念関連の式典等が7月1日に行われている。今回の100周年記念式典も7月1日であり、歴代の長老も参加し、天安門広場で行われた。今年の式典概要を見るに、違和感を持った点が何箇所かある。第一に、観閲式(地上閲兵式)が行われなかったことである。第二点目は、元国家主席である江沢民が2019年の中華人民共和国「建国70周年記念式典」に参加していたものの、今回参加していなかった。また、何名かの政治局員も今回の式典を欠席した。そして、第三点目は、習近平の式典での演説である。「改革開放」路線をさほど強調しなかったのである。寧ろ、習近平自身がこれまで行ってきた政策等の評価(これまでの成果)を強調した。これは、これまでの例からすれば、かなり異例である。 第一点目と第二点目は、武漢から始まったと言われている新型コロナウイルス(Covid-19)対策と言えないこともない。また、江沢民元国家主席は高齢で体調が許さなかった可能性も考えられるが、果たしてそうなのだろうか。 先ずは、「第一点目」の地上閲兵式が行われなかった点を見てみよう。習近平は、共産党総書記であり、国家主席である。そして中央軍事委員会の委員長でもある。そのようなポジションにありながら、100周年記念行事に閲兵式を行わなかった。これまででは考えられないことである。米中が緊張・対峙する中、日米首脳会談やG7会議等で「台湾海峡の両岸の安定」等が議論され、共同声明で発出される最中、軍のパレードを行わなかったのである。単純にCovid-19対応とも考えられるが、そうであろうか。軍事パレードをする場合には、習近平主席の前を行進する軍人や各種兵器等を、稼働率によるが通常、数倍用意する必要がある。即ち、かなりの兵力を天安門周辺に参集させる必要がある。この様な状況で、最高指導者(独裁者)が考えないといけないことは軍の反乱(クーデター)だ。民主主義国家でクーデターは起こり難いが、かの国ではどうであろうか。習近平主席と軍との関係は必ずしも良好でないとの報道もある。この様な状況の中で、軍事パレードを主催すべきかとの疑問があったとも考えられる。 「第二点目」の式典へ欠席はどうであろうか。中国は、他国と全く異なり、中国共産党が国家の上に立って国家を指導する統治形態を執っている。共産党の行事は、国家行事よりも重要である。共産党幹部や国家の主要ポストに就いている人達は、万難を排して参加すべき行事だ。それにも拘らず、欠席をした人達がいたことは驚くべきことでる。寝たきりでない限り、欠席が許される事ではない。私は、何かの意図(意志)を感ずる。 そして、「第三点目」の式典での演説である。習近平は、今回の式典で以下のことを述べた。(1)小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的建設=貧困問題の解決、(2)閉鎖経済から全面的開放経済となって経済規模で世界第2位となった、(3)中国の社会主義のみが中国を発展させることが出来る、(4)中華民族の偉大な復興は不可逆的な歴史の歩み、(5)世界一流の軍隊建設で主権・安全を守り、一帯一路構想で中国経済を拡大、(6)覇権主義に反対し、いかなる外圧をも許さない、(7)香港の一国二制度や高度な自治の貫徹及び国家安全法の執行維持、(8)台湾問題を解決して祖国を完全統一することは共産党の歴史的任務、の8点である。 この演説は、基本的に、彼が2012年に中国の最高指導者に君臨した以降の「成果」の強調及び「中国共産党が最高の統治形態」であること、そして「他国(特に米国と欧州)に対する警告」、そして「最終目標(核心的利益)であるの台湾の統治」を強調したものである。「成果」とは、所謂、「彼のこれまでのお手柄」の確認である。その最大の成果は「香港」に対する統制の強化である。この演説により、彼の第三期目以降の就任をより確実にし、このことにより、中国の最大の権力者であった毛沢東に近づいたのである。そして、次なる彼の狙いは、毛沢東を追い越すことである。それには、毛沢東が統治しようと金門・馬祖を攻撃したものの、熾烈な抵抗に会い、攻撃(占領)を断念せざるを得なかった台湾統一(一国二制度~征服)であると考えられる。 最近、至る所で米中の戦力比較が行われている。総合力では米軍であるが、台湾海峡周辺では、米国の展開までの時間等を考慮すれば中国優位等々の評価が横行している。いろいろな観点からの評価が必要であるものの、私は現状や見通せる近い将来において、もし中国軍が台湾を巡って米軍と正面から戦ったとしても、それほど簡単に台湾を占領できると思っていない。中国の台湾占領作戦遂行は困難を極め、仮に台湾占領が成功したとしても、中国側にかなりの犠牲と莫大な被害が予測される。被害の度合いによっては、台湾占領が成功したにも拘らず、習近平が失脚することも考えられる。習近平は、そんな賭けをするのだろうか。「否」であろう。それでも当然、彼は台湾統一を諦めることを決してない。「台湾は中国の核心的利益」だからである。まだ、その段階ではないと考えているだけだ。しかし、彼には、台湾に関する何らかの「手柄」が必要なことも事実であろう。この「手柄」がないと、彼は最高指導者としてのスムーズに四期目へ入ることが出来ない。この「手柄」とは、台湾本土の占領でなくても、例えば、台湾が統治している南シナ海の孤島(東沙島・大平島)とか、台湾海峡に所在する金門・馬祖列島を占拠、又は統制下に入れることが出来れば良い。 我々は、米軍や欧州諸国と協力・連携し、習近平が、これらの地に迂闊に手出ししないように準備に入るべきである。(令和3.7.7) 岩崎茂(いわさき・しげる) 1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。 写真:新華社/アフロ 《RS》