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AEGIS Ashoreの代替は?INFの東アジア配備は?国家安全保障戦略の見直しが急務[1](元統合幕僚長の岩崎氏)

2020/8/25 14:00 FISCO
*14:00JST AEGIS Ashoreの代替は?INFの東アジア配備は?国家安全保障戦略の見直しが急務[1](元統合幕僚長の岩崎氏)   本年6月15日夕刻、河野防衛大臣は突如(?)としてイージス・アショアの導入計画の停止を発表した。国家安全保障会議(NSC)では、導入を中断する事が正式に決定された。河野大臣は、迎撃ミサイル(SM-3)の飛翔経路をコントロールし、ブースターを演習場内に落下させる為の措置を講ずると説明(約束)してきたものの、演習場内や海上に落下させる為に、このシステムのソフトウエアのみならず、ハードウエアを含めシステム全体の大幅な改修が必要となり、相当な経費と期間を要する事が判明したとの事で、このシステムの配備に関するプロセスを停止すると説明した。これまで防衛省として地元住民を含めた国民の皆様に約束したことが守れないという点、理解できる点もあるが、迎撃ミサイルを発射する状況は既に有事である。ブースターが演習場外に落下する可能性があれば、その地域住民の方に避難してもらう、若しくは迎撃ミサイルの発射機を海岸線近くに配置してブースターを海に落下させることで解決できないのかという疑問が湧いてくる。通常、この様な大型プロジェクトを停止する場合には対応策や代替等を検討している筈であるが、今回はこの点につては何も説明がされていない。仮に全く検討されていなとすれば、やや無責任は判断との批判は免れないのではと思いつつ、この報道を聞いていた。 この報道の直後から、自民党の中では、このイージス・アショアの代替手段の検討が始まった。検討当初は恰もイージス・アショアの代替手段が敵基地攻撃(反撃)能力の保有だとの短絡的な議論、又は報道の誘導が散見されたものの、最終的には相手領域内での阻止能力の保有の検討という穏やかな表現でまとめられ、政府へ提言された。 一方、政府や防衛省は、イージス・アショア中止判断から代替案を検討しつつ、総合的な観点からの方向性を見出そうとしている。その為には所謂、「国家戦略」の見直しが必要との考え方が出されており、私は当方針に大賛成である。今回のイージス・アショア導入計画中止の代替手段の検討も重要であるが、総合的なミサイル防空能力(IAMD)を、今後どのように構築するのかを総合的に検討すべきである。そもそも現在、わが国が保有している「国家安全保障戦略(NSS)」は2013年12月に閣議決定されたものである。これは、2012年から2013年にかけての我が国を取り巻く環境の中で策定された、我が国として初めて成文化された「国家戦略」である。しかし、その後の我が国を取り巻く国内外の環境は著しく変化してきている。中国は南シナ海で埋め立てを行い、もともと岩礁やリーフだったところに陸地(島)を作り、滑走路を建設し、格納庫を建て、レーダーや対空火器を配備し、着々と軍事拠点化を進めている。そして今年4月には南シナ海に行政区を発令し、南シナ海が中国の施政下にある事を内外に宣言した。好調な経済力を梃に軍事力を増強し、活動を活発化させている。特に海空軍力の増強は著しく、最近では、中国海軍は空母や駆逐艦等を東シナ海や南シナ海のみならず西太平洋へも頻繁に派遣しており、戦闘機や爆撃機・偵察機等が沖縄・宮古間を通過する事も常態化しつつある。また、台湾海峡沿いにはDF-11/15/16/17等の弾道弾を年間50発以上のペースで増加配備しており、既にその総数は既に1,000発を遥かに超えている。当初の弾道弾はせいぜい台湾を射程内に収める程度のものであったが、現在では射程が1,500kmを越える中距離弾道弾が配備されており、台湾はもとより、沖縄や九州もこれらの射程内となっている。 北朝鮮は、1993年から弾道弾発射実験を開始し、1998年に我が国上空を飛び越え、太平洋上に落下させる弾道弾発射実験を行った。以降数年毎に発射実験を行っていたが、2015年以降はその頻度が多くなり、その飛翔のさせ方もロフテッド軌道やデプレスト軌道等、迎撃が困難な形態となってきている。これらの弾道弾の最大射程は我が国の全土を遥かに超え、ハワイや米本土まで届くとも評されている。また、核実験は2006年の第1回目から逐次、その威力が大きくなっていった。2019年の第6回目の実験における推定出力は160Ktであり、広島型原子爆弾のほぼ十倍となる威力まで到達した。そして近年では小型化が進んでいるとの報道もある。弾道弾へ搭載されれば、我が国にとっての脅威が一段と高くなる。 ロシアは依然として核大国である。そのロシアでも最近は、弾道弾の極超音速化が一段と進み、不規則飛翔が可能となる等、益々迎撃が困難になりつつある。 この様に我が国は、2013年と遥かに異なる脅威環境下に晒されているのである。 我が国の国内状況も、2013年当時と大きく変わってきている。先ずは「平和安全法制」の制定である。これまで集団的自衛権は国家として保有しているものの、憲法上その行使が認められないという解釈を変更し、現行憲法下でも集団的自衛権の中の一部を行使可能と解釈することとした。個別的自衛権の行使のみ可能とした従来の考え方から、一部の集団的自衛権の行使も可能としている。これは我が国とって、また同盟国等にとっても非常に大きな変化である。そして日米間では、2015年の日米協議で「日米防衛協力指針(ガイドライン)」を18年ぶりに見直し、日米の任務分担等を再定義した。我が国の国内事情も、このように大きく変化してきている。 また、米国も大きく変わっている。オバマ政権からトランプ大統領への移行である。トランプ政権は2017年末から2018年にかけて、各戦略の見直しを行った。「国家安全保障戦略(NSS)」、「国家防衛戦略(NDS)」、「国家軍事戦略(NMS)」、「核態勢見直し(NPR)」、「弾道ミサイル防衛見直し(BMDR)」等が新規に策定された。また、トランプ大統領は2018年に突如、「中距離核戦力(INF射程;500Km~5,500Km)全廃条約」の破棄と離脱を宣言した。破棄した理由は、(1)ロシアがこの条約を守っていない事、(2)この条約に中国が入っておらず、中国は無制限にINFを製造・配備可能であることが挙げられている。このINF条約は2019年に失効し、米国はそれ以降、地上配備型の中距離ミサイル(射程は約1,000Km程度と推定)を開発中である。そしてこのミサイルを対中国や対極東ロシアの観点から、東アジアに配備したいとの意向を持っている。(令和2.8.25) 「AEGIS Ashoreの代替は?、INFの東アジア配備は?、国家安全保障戦略の見直しが急務(元統合幕僚長の岩崎氏) (2)へ続く」 岩崎茂(いわさき・しげる) 1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。 《SI》