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台湾海峡危機に関する議論が伯仲(2)(元統合幕僚長の岩崎氏)

2021/9/7 14:12 FISCO
*14:12JST 台湾海峡危機に関する議論が伯仲(2)(元統合幕僚長の岩崎氏) 本稿は、「台湾海峡危機に関する議論が伯仲(1)(元統合幕僚長の岩崎氏)」の続きである。 我が国の多くの安全保障関係者は、「台湾有事を、ほぼ我が国の生存危機事態」と考えているものの、「日本と台湾の安全保障上の交流」は行われていない。事が起こってからでは遅すぎる。特に、現代戦は作戦推移が急激である。事前準備がより大切になってきている。我が国は予てから「One China Policy(一つの中国政策)」」を堅持しており、台湾との各種交流は簡単でないものの、事態は迫っている。より深刻な危機感を持って臨むべきである。 そこで、私は、以下を提言したい。 1.早期の戦略見直し 我が国は、2013年12月に「国家安瀬保障戦略(NSS)」を閣議決定している。当時の様相と近年では、国内外ともに環境が劇的に変化してきており、今後の我が国周辺での事態に適切に対応すべく、早急な見直しが望まれる。 2.「戦略体系の見直し」及び「新中期防策定」を急げ 戦略体系のあるべき姿に関して、前記「NSS」策定時にも議論されたが、結果的に時間的な制約もあり、「防衛計画の大綱(以下「大綱」)」を維持することとした。 「大綱」が我が国の安全保障政策に果たした役割は計り知れないものの、我が国は戦略体系を見直し、「NSS」を受けた「国家防衛戦略(NDS)」、(「国家軍事政略(NMS)」)、「統合運用戦略(JOS)」等々へ移行すべきである。そしてこれらの戦略では、台湾海峡の危機のみならず、台湾との交流の仕方にも言及すべきである。 そして、新戦略の下で「新中期防衛力整備計画(「中期防」)」を策定する必要がある。この際、特に我が国の情報収集能力、遠距離作戦能力、機動力、新分野(宇宙・サイバー・電磁波)能力、抗堪性・継戦能力を向上させる施策を盛り込むべきである。 また、NSS策定に際しては、防衛分野以外の戦略策定も必要である。「NSS」の範囲は、必ずしも防衛分野のみではない。外交、経済、エネルギー、食糧、教育など広範にわたるものである。それぞれの分野で国家としての戦略を示す必要があると考える。各分野の戦略の頂点に立つのが「新NSS」なのである。 3.日米同盟の再定義 日米安全保障条約は、我が国の防衛・安全保障を考える上での大きな柱であることは、今後も変化することがないと考えられる。ただし、更なる強化を目指すのであれば、再定義が必要である。2021年末までに、本年2度目の「2+2(外務・防衛相)会議」が予定されている。この会議では、昨年来問題が指摘されている、所謂、「思いやり予算」が議論されると思われる。私は昨年以来、この名称を変えるべきと主張している。米軍にとって「思いやり」とは、どんな響きなのだろうか。在日米軍は、日本から「思いやられる」存在なのだろうか。私は、更なる日米関係強化の為、この制度を飛躍的に発展させた、単に軍事分野に限らず「日米関係強化予算」または、「日米同盟(強化/協力)予算」等へ移行すべきと考えている。安全保障の新分野と言われる宇宙、サイバー、電磁波等は、軍事に限ったことではない。より拡大した中での予算配分を行うべきで、これは我が国の防衛費枠には相応しくない分野であり、別管理すべき経費である。 世界は今、大変革期に入っている。世界は、「中国の台頭」と「米国の相対的力の低下」とともに、様々な問題点が噴出している。そしてこんな時期に最悪の新型コロナウイルス事態である。 ここで我々は、自分の立ち位置を明確にし、中長期的観点から、世界の中での日本の役割を認識し、行動する時である。(令和3.8.27) 岩崎茂(いわさき・しげる) 1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。 写真:ロイター/アフロ 《RS》