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日米会談やG7等で台湾海峡危機が議論、習近平の野望とは?(元統合幕僚長の岩崎氏)(2)
2021/6/24 9:28
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*09:28JST 日米会談やG7等で台湾海峡危機が議論、習近平の野望とは?(元統合幕僚長の岩崎氏)(2) 本稿は、「日米会談やG7等で台湾海峡危機が議論、習近平の野望とは?(元統合幕僚長の岩崎氏)(1)」の続編となる。 最近の中国軍の能力は如何ばかりであろうか。近年の中国軍の近代化は急ピッチで進められており、その戦闘能力も急速に向上している。しかし、現在や近未来の中国軍が、台湾侵攻に必要十分な戦力を保有しているかと言えば、危うい状況であろう。現状においては、中国軍が台湾本島を強引に奪取する場合には、中国側も多大な被害・犠牲を被る可能性が大である。そして、この作戦が失敗すれば、習近平政権がひっくり返る事は必至であろう。この様な事を考えれば、私は、習近平の次なる狙いは、先ずは金門・馬祖ではないかと考えている。では、どのような手段や手法、戦法で金門・馬祖を管轄下に置くのであろうか。毛沢東と同様に莫大な数の砲弾をこの地域に浴びせるのであろうか。否である。最近のクリミア半島や南シナ海等々での行動が参考になるであろう。所謂、「ハイブリッド戦」とか「グレーゾーン」とか呼ばれる方法で、影響下に入れ、時間をかけて占拠する(統治下に置く)方法を選択するであろうと考えられる。 その前兆かもしれない事案が昨年10月末、中国本土から10Km程度に所在する馬祖列島の一部である南竿島周辺で起こった。南竿島周辺海域に200隻を超える中国の海砂採取船や運搬船、そして漁船等が結集し、海底の砂を吸い上げ、南竿島の海岸の砂浜が見る見るうちに消失した事件である。思い起こせば以前、同じようなことがあった。2014年、ベトナム沖に約100隻の中国船籍の石油試掘船や海警局の艦船及び漁船等が展開し、石油を試掘した事案があった。ベトナムの法執行機関である沿岸警備隊の艦船は、多くの中国船に邪魔され試掘場所に接近することが出来なかった。結果として試掘を許してしまったのである。米国はオバマ政権であったが、中国に諫める事をしなかった。この試掘の直後に行われたシャングリア会議(「アジア安全保障会議」)でもヘーゲル米国防長官は、中国の石油試掘に加え、南シナ海での埋め立てに関しても警告を行なわなかった。中国は、この後も淡々と埋め立てを継続した。翌年のシャングリア会議で、漸く米国(カター米国防長官)は中国に対し強い警告を行なった。これに対し、中国は南シナ海での埋め立てをこれ以上行なわない事を約束している。ただ、中国は既に所要の埋め立ての殆どが終わっていたのである。「時すでに遅し」である。そして中国は、米国に対して「埋立地を軍事化しない」と約束したものの、いつの間にか3000m級の滑走路が出来、警戒監視用のレーダーが設置され、対空火器も配備されている。そして、堂々と「自国の領土・領海・領空を防衛することは、国家として当然の責務」と明言している。これが中国のやり方である。中国に対しては、タイミングが重要である。タイミングを失すると取り返しのつかないことが起こり得る。我々は、この様な事を決して忘れてはいけない。今回の中国船籍の南竿島周辺での勝手な海砂採取に関して、米国は何も反応していない。この南竿島周辺の中国船籍数は、2018年にはほぼ皆無であったが、2019年には延べ隻数が年間90隻を超え、2020年には年間500隻を超える船が出没し、この傾向が2021年も続いている。我が国の尖閣諸島と同じ様な状況になりつつある。私は、これが次へのシグナルではないかと感じている。 また、中国が金門・馬祖周辺で実力行動に移る際には、我が国の南西域も巻き込まれる可能性が高い。そして仮にこの地域が、中国に支配されることになれば、次は確実に台湾本島への侵攻であろうし、その際、中国軍は台湾に対して大陸側からのみならず、太平洋側からも攻撃することが考えられる。そうすれば、我が国もこの余波に巻き込まれる。この様な事態は、我が国にとって「周辺事態」ではあるものの、即座に我が国の「存立事態」に発展する危険性が高い行動である。即ち、我が国の有事なのである。 このような状況に我々はどのように対応すべきなのか。現時点で、中国は、中国が日米の動きを無視して勝手に行動出来るくらいの実力(戦力)を保有していると思っていないと考えられる。彼らは、これまで、常にこちら側の顔色を伺いながら自国の権益拡大を行ってきている。今後も当面はこのような傾向が続くであろう。彼らのやり方は、あらゆる分野(政治的・経済的・軍事的・イデオロギー的・宗教的・文化的等々)の「空白」に侵入し、橋頭堡を構え、これを既成事実化し、少しずつ権限拡大を図る。この様な事を認識し、私は、我が国は、以下のような事を早急に行う必要があると考える。 先ずは、現在の「国家安全保障戦略(NSS)」を早急に見直すことである。現在のNSSは2013年12月に閣議で決定された。このNSSは、我が国で初めて成文化された戦略である。ただし、このNSSは策定されてから既に7年が経過している。この間、我が国を取り巻く安全保障環境が激変し、国内事情(平和安全法制の整備等)も変わり、米国もオバマ政権からトランプ政権を経てバイデン政権となり、日米関係も大きく変化してきている。この様な諸事情を勘案すれば、我が国は早急に現NSSを見直し、これに続く「防衛計画の大綱(以下「大綱」)」及び「中期防衛力整備計画(以下「中期防」)」を見直す必要がある。また、このNSS改定とともに、今までに何度も議論されてきている緊急事態法の制定や外交や経済、エネルギー、先進技術保全等も含め議論し、夫々の分野の戦略・計画等を作る必要がある。また、最近のグレーゾーン対応を考慮すれば、我が国の法執行機関である海上保安庁と警察庁の体制(態勢)強化・能力向上と、これらの機関と防衛省・自衛隊との法的位置づけを明確にし、これまで以上の強い危機管理体制の構築が望まれる。加えて、米国には台湾を支援する「台湾関係法」が存在する。そろそろ、我が国でも、外交方針としての「One China Policy」を維持しつつも、台湾をサポートする枠組みを作るべき時期に来ているのではと考えている。台湾との関係は、これまで国交がなかったことから、先ずは、海難事故や自然災害に対する協力体制構築から始め、今回の新型コロナウイルス(Covid-19)関連の協力体制、中国の経済圧力(2012年スカーボロ環礁占拠時のフィリッピンのバナナ不買運動、最近の台湾のパイナップル不買運動)への対応策構築などから始めることも一法であろう。そして、最終的には安全保障に関する枠組みまで発展させるやり方が推奨される。また、米国の政府高官等の台湾との交流等を規定している「台湾旅行法」も参考にしながら、積極的に人事交流を推進すべきである。 次に、米国及び米軍との信頼関係強化に努めることである。その為には、先ず、我が国自身が自国防衛の為の強い意志(覚悟)を見せることである。自国の防衛が他力本願であってはならない。そんな国を助けてくれる国は存在しない。前述の「大綱」や「中期防」を見直し、これまで以上の防衛力強化策を具体的に示すことである。菅総理は、米国での首脳会談後、我が国の「防衛力強化」を宣言した。我が国の覚悟を示す時である。そして、米軍との関係では、「共同作戦計画」(特に台湾海峡周辺での事態対応計画)を立案し、訓練を重ねることである。我々が訓練を行い、事態対応能力を向上させることが各種事態を抑止することに繋がる。確たる証拠はないが、中国は最近、台湾海峡から南シナ海に注意を逸らそうとしているのではと考えられる行動を採っている。今年3月中旬以降、中国軍用機の台湾海峡周辺への飛来機数が少なくなり、特に台湾海峡の台中・中間線を越える飛行が激減している。そして南シナ海での中国の各種活動が活発化している。例えば、3月以降のフィリピン沖における数百隻レベルの中国船舶の長期停泊であり、5月31日のマレーシア・ボルネオ島沖での中国輸送機16機による領空侵犯事案等である。これまで、中国とマレーシアの関係は良好であった。この領空侵犯に関して、中国は救難訓練と言い訳をしている。中国のパイロットの技量はそれ程高くないものの、他国の領空に入らない程度のナビゲーションは可能であろう。16機が同時に領空侵犯する事には何か意図的なことを感じる。我々は、引き続き台湾海峡の安定に最大の関心を持って警戒している事を情報発信し続け、一旦、事が起こった場合の備えを万全にしておくことが重要である。 また、更に、フランス、英国がインド洋・太平洋に関心を寄せる様になっている。そして最近ではドイツも、この地域への関与意向を表明している。先のG7でも、中国の「一方的な力による現状変更」に反対し、「人権」、「民主主義」等を中国に要求することが議論され、G7として初めて「台湾」について言及し、「台湾海峡の両岸問題の平和的解決」が共同声明として発表された。大変望ましい傾向である。我が国主導で行われ始めたクワッドの四か国(日・米・豪・印)及び欧州各国を入れ、大きな枠組みを作っていく事が、中国に対する大きな警鐘になる。 我々は、中国に対しあらゆる分野で「空白」を見せてはいけない。いろいろな所、分野に目を光らせておく必要がある。宇宙・空・海上・水中、サイバー空間・電磁波等々の分野は勿論のこと、三戦(世論戦・心理戦・法律戦)に至るまで、全ての分野に対する「常時警戒・監視」が必要である。そして、適時適切な「中国に対する警告・国際社会への呼びかけ」が必要である。この際、言葉のみでなく、行動が必要なことは当然である。この様な事が中国側の行動を遅滞させ、又は思い留まらせることを可能とする。 私は、何も中国と敢えて対峙することを望んでいる訳ではない。中国が我々と対話を望むのであれば、こちら側はいつでも「Door Open」であり、議論に応ずることは吝かではない。中国が、民主主義的な手続きを踏み、人権を尊重して守ってくれ、国際規範を遵守してくれるのであれば、普通の国として付き合うべきと考えている。(令和2.6.16) 岩崎茂(いわさき・しげる) 1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。 写真:AP/アフロ 《RS》
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