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緊張緩和は対話から−日中海空連絡メカニズム【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

2021/3/8 10:54 FISCO
*10:54JST 緊張緩和は対話から−日中海空連絡メカニズム【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】 今年2月1日に中国海警法が施行された。同法に海警が武装警察の一組織として、中央軍事委員会の指揮下に入る事や、武器の使用を規定する条文が含まれていたことから、両国の報道が過熱している。2月25日の自民党会合で、政府は「外国公船や軍艦が日本への上陸目的で領海侵入し「重大凶悪犯」に当たるケースであれば、危害射撃(相手に危害を与えることを許容する武器の使用)が可能」との解釈を提示した。これに対し、3月1日付解放軍報は国防省情報局の「中国法執行機関の釣魚島周辺における活動は、正統であり、適法であり、今後常態化させる。日本は、中日関係の長期的発展を目指し、相互協力を進めるべきだ」とのプレスリリースを伝えている。 尖閣の領有権を日本が保有していることには疑いが無く、中国の理不尽な要求や高圧的な行動には毅然と対応する必要がある。しかしながら、同諸島を巡り、日中両国が干戈を交えるような事態は避けなければならない。先月、筆者は「世論戦の光と影」というコメントで、両国の報道が過熱することによる悪影響について述べた。現在でも現場は両国法執行機関の船舶が活動しており、日本国内において海上自衛隊の活用も取りざたされている。尖閣諸島周辺には、日中の海軍艦艇等が常時展開しており、何かあれば即座に駆けつけることのできる状況となっている。日中の報道の過熱は、法執行機関だけではなく、軍の緊張も高め、不測の事態が生起する蓋然性が高まっていると言えよう。 この様な情勢下で、日中両国軍関係の不測事態発生を防止するために設けられているのが、「日中海空連絡メカニズム」である。同メカニズムは、東シナ海において監視任務を行っている海上自衛隊の艦艇に中国フリゲートが射撃管制レーダーを照射した事件や、緊急発進で飛行中の航空自衛隊航空機に中国戦闘機が異常接近した事件を契機として、両国間で交渉が重ねられて、作られたものである。 2018年5月に署名された「日中海空連絡メカニズム」の細部は公表されていないものの、(1)年次会合の実施、(2)ホットラインの設置、(3)艦艇及び航空機間の通信要領、の3点から構成されている。2020年1月に防衛省において行われた第2回年次会合・専門家会合において、防衛省は、同メカニズムの運用状況を確認するともに、ホットライン早期設置に向けた調整を行ったと公表している。東シナ海における相互の艦艇、航空機の異常接近も確認されていないことから、一定の成果は認められるが、締結後間もなく3年になろうとしているのに、ホットラインは設置されていない。 ホットラインの設置に関しては、どことどこの間で設置するか、暗号化はどうするか、その運用要領はどうするかといった課題がある事は事実である。最も大きな課題は、同メカニズムを日中の政策調整を含む政治的ホットラインとするか、単に現場における衝突防止に留めるかであろう。政治的ホットラインとするのであれば、中国は中央軍事委員会連合参謀部又は政治工作部、防衛省は防衛政策局又は統合幕僚幹部運用部となるであろう。一方、衝突防止を主眼に置くのであれば、中国は東部戦区連合指揮部、日本は自衛艦隊司令部及び空自総隊司令部となるであろう。ホットライン設置が遅れている理由は不明であるが、一つには中国人民解放軍内部及び防衛省内部で、どこがイニシアティブをとるのかについて決着がついていない可能性も否定できない。 ここで参考となるのが、中韓の同様の規定である。3月2日付解放軍報は、2008年11月に締結した中国と韓国の国防省が締結した海空軍間の直通電話の設定と使用に関する覚書(MOU: Memorandum Of Understanding)の修正MOUを3月2日に締結したと伝えている。記事には、直通電話は隣接する両国の海空軍に設置されているとある。韓国聯合ニュースは、従来国防部同士、中国北部戦区海空軍司令部と韓国海空軍司令部には3本の直通電話があったが、今回これに加え、中国東部戦区海空軍司令部と韓国海空軍司令部の2本が増設され、合計5本となると伝えている。国防省間に加え、実際に艦艇及び航空機を運用する部隊同士の直接連絡に使われていることが分かる。中韓の規定を見る限り、中国側は部隊同士の直接電話(ホットライン)設置には抵抗が少ないのではないかとみられる。防衛省側に、制服同士である海自自衛艦隊司令部及び空自総隊司令部と中国軍が直接やり取りすることに抵抗があることは容易に想像できる。さらには、機微な問題に発展しかねない交渉を、現場レベルで行えるかという問題もある。 緊張緩和は、まず対話から始まる。日中海空連絡メカニズムは、誤解や疑心暗鬼からくる不測事態を防ぐものである。同メカニズムは東シナ海を対象としているが、2018年に南シナ海を行動していた海上自衛隊の艦艇と中国艦艇の間で、それぞれの意思疎通を行っている状況が報道された。海自艦艇の呼びかけに中国艦艇は英語で回答しており、不要な接近を避けようという相互の意図が確認されている。東シナ海においても同様の状況であるものと考えられる。現場で衝突を避けるための意思疎通ができているのであれば、ホットラインは不必要ではないかとの指摘もある。 しかしながら、現場では解決できない問題も生起し得る。例えば、巡視船に不測事態が生起し、海上自衛隊の艦艇がこれを支援する必要が生じることも考えられる。現場の中国艦艇が海自艦艇の動きに疑問を持てば、事態がエスカレートしかねない。その場合、それぞれの国の責任ある立場にある部署による意思疎通が重要である。緊張緩和のためには、できるだけ多くの対話のチャンネルを持っておく必要がある。日中間のホットラインの早期設置が望まれる。 サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄 防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。 提供:第11管区海上保安本部/AP/アフロ 《RS》