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米中の第1段階合意、待った割には中身がない(1)【中国問題グローバル研究所】
2020/2/10 15:52
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*15:52JST 米中の第1段階合意、待った割には中身がない(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているフレイザー・ハウイー氏の考察を2回に渡ってお届けする。 ——— 貿易戦争が始まってから18ヵ月後の合意署名だった。トランプ大統領によれば「とてつもない重要なステップ」だが、第1段階の合意後も第2段階、第3段階が続き、さらに第4段階まであるかもしれない。言うまでもなく、今後も多くの段階が必要になるのは、今回合意した内容が関税導入当初にトランプ大統領や米政権が抱いていた望みやプランにはるかに及ばないからだ。合意は、外国の利益を保護するために中国に具体的な法改正の確約を求めた昨年5月の草案にも及ばず、そうした改正も今回の合意では担保されなかった。 文言の上ではトランプ氏にあつらえ向きだ。署名後の2年間で、中国が2017年の水準に上乗せして2,000億ドルを購入するという題目は、トランプ氏にとってさえ大きな数字だろう。工業製品、エネルギー、サービス、農業の4部門はすべて大きな恩恵を受けることになる。両国は今後2年間の購入額拡大を明示するために数字を発表した。その内容がどうあれ、合意はトランプ氏が言うような自由貿易とは異なり、強く管理された国家のトップダウン貿易取引である。この限りでは、中国側にとっては何も変わりはない。世界貿易機関(WTO)の規則は、いかなる国も貿易で特恵待遇を受けないと明示しているが、米中とも合意はWTOの規則に違反していないと主張する。現実には欧州の当局者は懸念を抱いており、今後の合意によっては欧州を犠牲にする恐れがあるとみている。さらに、中国と合意に達したトランプ大統領が、今度はその関心と関税賦課の対象を再び欧州に向けることを心配している。欧州は中国に輪をかけて米国に付け込んでいるとトランプ氏が主張しているからだ。世界の貿易秩序は正常に戻っておらず、すぐにそうなるとは思えない。トランプ氏の行動は貿易関係に根本的な変化をもたらし、その功罪は相半ばする。 署名の際、トランプ氏は訪中して素晴らしい友人である習近平氏と会い、次の段階の話し合いを始める考えを示したが、同時に第2段階の開始は米国の大統領選挙後になるかもしれないと示唆した。合意内容を発展させることに緊急性がないのは明らかだ。選挙後と言っても、トランプ氏とそのチームが政権から去っていたら一体どんな意味があるのだろう。 達成したのは、中身のある貿易合意ではなく貿易休戦である。第1段階の合意で、中国は米国の特定の製品やサービスを購入する大胆な約束をし、その見返りとして米国は一部の関税を引き下げ、計画していた新たな関税を見送った。中国の要求の柱は全ての関税の撤廃だったため、その点で中国は敗北したように見える。もちろん議論の余地はあるかもしれないが、今回のラウンドで先にひるんだのは中国である。中国側は「数」の面で譲歩した。しかし、おそらく法制度や市場開放の面では譲らなかった。中国が必要としている航空機や農産物、エネルギーといったモノやサービスの購入を増やす約束は、中国からの大きな譲歩とは言えまい。 知的財産権の保護については、中国側も「知的財産権保護について包括的な法制度を確立し、施行することの重要性を認識している」という。さらに、「強制的な技術移転は重大な懸念事項である」という認識も持っているという。これら文言は不十分で、特に中国の地方レベルにおける取引の実態に何ら対処するものではない。北京の中央政府で響く素晴らしい言葉と、地方の首長との交渉とはやはり別物である。中国はこのような漠然とした定式化に喜んで取り組むだろう。合意の内容から、中国の経済システムが意味のある形で変化しているようだと解釈できることは何もない。 国家の支援と指示、そして補助金まで受ける産業は従来どおり存続するだろう。中国に変化を起こすのは、今回の合意の発表内容ではなく、信用収縮や地方の情勢である。「中国製造2025」 プログラムの下で、中国が数々のハイテク産業を育成しようとしていることに現時点ではあまり言及されてはいないが、実行に移されていないわけではない。習近平氏の中国は、これまで常にそうだったように、依然として国家主義的であって自給自足を重要視している。 合意には一種の履行徹底メカニズムが組み込まれているが、どのように実行されるのかはまだ全くはっきりしていない。どちらの側からも比較的迅速な行動は可能になっている。中国に責任を取らせることはトランプ陣営の目標の柱である。 合意の第4章は金融サービスを特に対象としているが、約束されたことの多くは事実上すでに実施されている。GRICIは以前、金融セクターの外国企業への開放状況を取り上げたが、もはや開放だけでは十分ではない。中国の地元企業があまりに多くの分野で支配を強めている上、外国企業がアクセスを求め始めた当初に比べて、金融環境も見違えるほど変化している。米国側は、中国企業から米国の金融分野へのアクセスの申請があれば「迅速に」取り扱うと約束しているが、これは承認が下りることを意味するのではなく、無回答というもっと手っ取り早い方法で終わる可能性もある。米国の金融規制当局は、中国の金融企業のコンプライアンスや統制の機能を非常に懸念しているはずだ。これらの懸念は実態に沿うものだが、米国が申請を拒否すれば、今回の合意がもたらした友好的な雰囲気を損なってしまう。申請処理のスピードアップや相互投資に対するより開放的な姿勢を双方が約束すると合意文書でうたっても、できることは限られている。 (「米中の第1段階合意、待った割には中身がない(2)【中国問題グローバル研究所】」へ続く) ※1:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/ この評論は2月3日に執筆 写真:新華社/アフロ 《SI》
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