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習近平「ブロックチェーンとデジタル人民元」国家戦略の本気度(2)【中国問題グローバル研究所】

2019/11/8 16:13 FISCO
*16:13JST 習近平「ブロックチェーンとデジタル人民元」国家戦略の本気度(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。 ◇以下、遠藤 誉所長の考察「習近平「ブロックチェーンとデジタル人民元」国家戦略の本気度(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。 ——— ◆本気度、その2——「党への忠誠」初心「ブロックチェーン」アプリ 次は「党への忠誠を誓う」という「初心」を忘れないアプリを、ブロックチェーンに填め込むという決定だ。 同じく10月26日、中国共産党新聞は「チェーン上の初心で“党建設+ブロックチェーン”を体験しよう」(※2)という記事を掲載した。そこには「チェーン上の初心」というアプリが今日アップされましたと書いてある。 何のことだか、大陸にいる中国人以外には「さっぱり分からない」に違いない。これは習近平が2017年10月18日に第十九回党大会で言い始めた「初心を忘れず 使命を心に刻み込め」という言葉から来ており、価値観の多様化に伴い、「中国共産党」を特に重要視しなくなった若者や中間所得層などに対して「党の初心」であるマルクス主義を忘れるなと思想教育をするために生み出した言葉である。 今回のアプリは、ブロックチェーンと「党の建設」を結びつけたもので、党員は自分の「初心」をこのアプリに記録し、改ざんできないブロックチェーンに保存して、未来の自分に見せる、もしくはみんなに公開することができるという仕組みだ。 このようなことで人民を統治できると考えるのも、何だか滑稽に思われるが、それに真剣になる者もいないわけではないのが、中国の現実かもしれない。 それにブロックチェーンが産業活動や生活上便利であるならば「初心」には目をつぶっていればいいわけだから。 ◆本気度、その3——中国人民銀行が「デジタル人民元」? 10月28日になると、中国人民銀行科技司の李偉司長は、上海で開催された「中国金融四十人フォーラム」が推し進める第一回の「バンド金融サミット」で、「ブロックチェーン技術はデジタル・イノベーション発展を推進するに当たって絶大な潜在力を持っている」(※3)と語った。また民間銀行に対しても、金融事業へのブロックチェーン導入を強化するよう促した。 同フォーラムには中国国際経済交流センターの副理事長を務める黄奇帆が出席しており、ブロックチェーンを熱く語り「リブラが成功するとは思えない。中国人民銀行が全世界で最初にデジタル貨幣を使うことになるかもしれない:6大注意点」(※4)とい見出しで大きく報道された。 黄奇帆はあの薄熙来が重慶市の書記をしていたころに副書記を務めていて、何かと怪しげな動きをしており、ずっとその動向を追いかけていたのだが、結局金融方面に強いことから生き残り、今では「デジタル人民元」推進の中心的存在になっている。彼を生き残らせた胡錦涛政権とそれに続く習近平政権の「人物」の使い方には、少々感心するものがある。 彼のスピーチのテーマは「デジタル化リモデリングのグローバル金融エコロジー」。 その中で彼は以下のような爆弾発言をした。 ——デジタル化は天地をひっくり返すような作用をする可能性を秘めている。将来的には、定量的投資(決められた規則・モデルに沿って投資する)やロボアドバイザー投資(ロボットが自動的に設定に従って投資をしてくれる)、人工知能定価(AIで商品・中古品の価格を決める)あるいは「保険で賠償する場合の金額計算をAIで決める」とか金融クラウドサービス、「証拠・証明書をブロックチェーンに保存する」など、新金融業態が絶えず進化し、金融業界は、これまでになかった全く新しい時代に突入していく。それを中国がリードしていくことになる。 黄奇帆が語った6大注目点は、以下の6つである。 (1) ブロックチェーンはDNA技術のように、様々なレベルで基礎ステータスの底上げに役立つ。 (2) SWIFTとCHIPSは技術が古くて、効率も低い。国際送金に何日もかかるし、大規模な送金に対応できない、かつ手数料が高いという問題がある。したがって世界にはブロックチェーンをベースにする新型清算ネットワークが必要。 (3) ビットコインやLibra(Facebookの仮想通貨)が成功するとは思えない。貨幣の価値は信用から生まれる。信用のない仮想通貨は、根のない草に等しい。 中国中央銀行はすでにデジタル通貨を5−6年にわたって研究してきた。したがって最初にデジタル通貨を発行する銀行になるかもしれない。 (4) 通貨のデジタル化は世界の貨幣事情を変える。昔の貨幣は金本位制、その後は国家の信用に基づくことになった。アメリカが軍事と経済の実力により、石油と国際貿易のドル決済を独占し、実質的な世界通貨となったが、それがデジタル通貨によって打破される。 (5) 個人の支払い方法を革新させる。中国のデジタル支払い(キャッシュレス)は世界トップクラスで、2018年の支払い金額が39兆ドルであるのに対して、アメリカは1800億ドルでしかない。ブロックチェーンは支払い機構と銀行を繋げるネットワークとなり、クロスボーダーの支払いをより簡単かつ迅速化できる。 (6) デジタル化は産業チェーンの効率を上げることができる。5Gのモノのインターネットに融合できて、消費者向けだけではなく、産業向けのインターネットを構築し、効率を大幅に上げることができる。 ◆結論 結論的に言えるのは、中国という国家にとってブロックチェーンとデジタル通貨を採用することは、現金と違って履歴が残るために改ざんを防ぎ、国家の統一的な管理が容易になるというメリットをもたらす。 これにより国内的にはマネーロンダリングや詐欺、脱税などを防ぐことができる。金の流れまで記録できるのだから、人民への監視はさらに強まるだろう。 国外的には、人民元のグローバル化、延いては米ドル覇権の打破に繋がると習近平政権は考えているにちがいない。 デジタル通貨に民間が先に手を付ける前に、国家が握ってしまった方が得策だと判断したのは確かだ。 これを実行することにより果たして人民元が米ドル覇権を打破できるのか否か。 今後注目していきたい。 なお、フェイスブックのザッカーバーグCEOは10月23日、米議会下院金融サービス委員会の公聴会で仮想通貨「リブラ」の発行を阻止しようとする米議会に「アメリカは仮想通貨で中国に敗退する」(※5)と抗議した。 習近平がブロックチェーンに関する国家戦略を発表したのはその翌日の10月24日である。ザッカーバーグの警鐘は当たっているのだろうか。 ※1:https://grici.or.jp/ ※2:http://chuxin.people.cn/n1/2019/1026/c428144-31421868.html ※3:http://tech.ifeng.com/c/7r8XCg7VVib ※4:http://finance.eastmoney.com/a/201910281274248032.html ※5:https://forbesjapan.com/articles/detail/30409 この評論は11月4日に執筆 《SI》