*15:10JST KLab Research Memo(6):好調なゲーム事業へ特化する方向へ事業方針を変換
■成長戦略
1. 事業方針の変更
スマートフォンゲームを取り巻く環境変化が厳しいなか、ここ数年にわたってKLab<3656>は、内部開発によるゲーム事業中心から、外部開発/パブリッシングによるゲームタイトル数を増加させるほか、非ゲーム事業の推進により、三分鼎立(さんぶんていりつ)の状態を目指してきた。ただ、前期において新作タイトルが順調に立ち上がり、既存タイトルも好調であったことから、特定タイトルに収益依存せず複数タイトルからバランスよく収益を獲得できる構造になってきたこと(ゲーム事業のボラティリティの高さが経営に与えるリスクが後退したこと)を理由として、好調なゲーム事業に特化(経営資源を集中)し、ゲーム事業で更なる成長を目指す方向へと舵を切った※。
※ゲーム事業とシナジーが高い新規事業(ゲーム周辺事業)は常に検討。
2. 今後の方向性
同社は、ゲーム事業を更に成長させるために、(1)Japanese IPs(有力IPの獲得)、(2)Global Growth(海外パブリッシングの強化)、(3)Original Creations(自社IP創出)の3つのキーワードを掲げ、以下の施策に取り組む構えである。
(1) Japanese IPs(有力IPの獲得)
a) IPタイトルの高ヒット実績を生かした人気IPの獲得により、引き続き長期安定運営を目指す。
b) 中国を含む海外展開力を養い、パブリッシャーとしての魅力を高める。
c) アニメ出資等を通じてIPホルダーとの関係を強化する。
(2) Global Growth(海外パブリッシングの強化)
a) 海外展開によりゲーム1 タイトルあたりの収益の最大化する。
b) 欧米・アジアにおけるパブリッシングを強化する。
c) 世界最大規模の市場となった中国でも配信を強化し成長を加速する。
(3) Original Creations(自社IP創出)
a) 原作開発に秀でた人材の獲得、パートナーアライアンス、社外の有力クリエイターとの連携を強化。
b) アニメ化などのメディアミックス展開等でコアなファン層を育成。その後ゲーム化し、ゲームのヒット率を高める(すなわち、音楽やライトノベル、ドラマCD、コミック、アニメ、興行等の複合的なメディア展開を行った上で、ゲーム化の可能性を探る)。
c) ゲーム化未決の作品も世に送り出していく。
弊社では、スマートフォンゲーム市場の先行きに不透明感があるなかで、海外への展開、残存者利益の享受(外部リソースの活用を含む)が同社の成長を支えるものとみており、その動向に注目している。また、運営力の高さが発揮されてきたことや、「リスクヘッジよりも売上成長」をキーワードとしたゲーム事業への集中・非ゲーム事業等の整理も経営の安定性を評価するうえで、プラスの材料と言える。今後も、日本のIPをゲーム化し世界中へ展開していくノウハウや独自のマーケティング力を生かして、いかに同社ならではの新たな価値を創出していけるかが成功のカギを握るだろう。
■株主還元
自社株式の取得を重視した株主還元方針
同社は、今後の事業展開や企業体質の一層の強化に向けて内部留保に努めるため、これまで配当を実施してこなかったが、2017年12月期は経営成績が過去最高を更新したため、2017年12月末基準の株主向けに特別配当9円を実施した。ただ、今後の株主還元については、配当よりも自己株式の取得を積極的に検討する方針を打ち出しており、2018年12月期については現時点で配当の予定はない。一方、自社株式の取得については350,000株(500百万円)を上限とする取得を2018年3月28日に決議すると、4月23日~24日において261,100株(499百万円)の自己株式を取得(終了)している。
同社の株主還元の考え方は、積極的な事業投資を優先すべきフェーズにある同社にとって、固定されたタイミングで固定的な現金支出を伴う配当よりも、実施するタイミングや金額を同社が柔軟に定めることができる自社株式の取得のほうが適している上、株主にとっても1株当たり株主価値の向上や株式市場における需給バランスの改善を図ったほうが、結果としてメリットが大きいとの判断に基づくものである。また、株主還元の規模については、事業拡大のための投資余力や財務的安全性とのバランスを考慮しながら決定する方針としている。
同社のIR担当者によれば、個人投資家からは配当を求める声が多い一方、機関投資家からは積極的な事業投資や自社株式の取得を支持する声が多く、株主還元に対する評価は様々であるようだ。弊社では、海外展開を含めて成長に向けた投資機会が豊富にあることに加え、自社IPの創出やマルチメディア展開など、新たな事業投資を通じて収益基盤をさらに強化すべき段階にあることから、できるだけ機動性のある投資余力を確保しておくことが戦略的に重要であると認識しており、同社の考え方には合理性があるものと評価している。
なお、中長期にわたり保有してもらえる株主を増やすことを目的として、株主優待制度を導入している。同社人気タイトルをデザインしたオリジナルQUOカードを、保有株式数/保有期間に応じて1枚から5枚進呈する内容である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田 郁夫)
《MW》