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米中ロ間における蝙蝠外交は中央アジアとも類似、ベラルーシの地政学【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
2020/1/20 16:59
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*16:59JST 米中ロ間における蝙蝠外交は中央アジアとも類似、ベラルーシの地政学【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】 ソレイマニ暗殺の余波で、ポンペイオ長官の中欧・東欧のツアーがキャンセルされたが、周る国の一つであるベラルーシの状況について考えてみたいと思う。 ベラルーシの地理的位置は、西をポーランド、東をロシアに挟まれている。ベラルーシの国境地帯からモスクワまでは500km弱であるが、これは東京から京都・大阪まで行くぐらいの距離だ。モスクワまでの道程には、第二次世界大戦において2回ほど大規模な作戦が行われたスモレンスクという戦略的な要所もある。 モスクワにとっては、西側との戦略的な距離をおきたいと考えたら、このベラルーシを最低でもNATOに対して中立化、もしくはロシアの一部にしておく必要がある。 ■独裁制による特異性、ウクライナとは違う ロシアはベラルーシの独立以降、常に多大な圧力をベラルーシへかけてきたと考えられる。しかし、ベラルーシのルカシェンコ大統領は「ベラルーシ・ロシア連合国家」構想という、独立を損ねないような条約を生かしたままロシア軍の基地を置かせていない。ソ連時代の影響もあって言語のバリアがほぼなく、原理的な親ロシア感情の土壌を持ちつつも、青少年にベラルーシ民族意識のようなものを育てることに成功している。元々、ベラルーシは独立当初、すぐロシアと再統合するという前提で動いていたのが、今となってはなかなか複雑な形になったとも言える。結果、今や一般のベラルーシ人はクリミアを見て次は自分たちと恐怖して、これを基に抗議活動もする。もちろん、抗議活動鎮圧の激しさはルカシェンコの匙加減による。 ベラルーシの特異性はその「独裁制」からも見られる。独裁者としては珍しく、政治的に無所属という体であり、彼を支えるものは政党ではなく、彼自身が君臨する大統領制そのものである。政府組織・国営企業(ベラルーシがソ連の生き残りと言われるゆえんは、ソ連時代のシンボルが残っているほかに、それまでの国営企業群を維持していることにある)・軍・治安組織などが彼の支持基盤であるからと想定される。よって、国の骨格と大統領としての彼が一体化されている。立法でも彼の支持者である「無所属」議員が圧倒的多数であるため、彼が全てを采配すると言っても差し支えない。こう見ると、ウクライナと違い、地域の一部分離などの工作はロシアからすれば非常にやりにくいことがわかる。 ■基本戦略は米ロの間を泳ぐこと、中国の登場でさらなる蝙蝠外交が可能に ベラルーシ最大の輸出産業は、ロシアからくる石油・ガス精製とその周辺産業、肥料その他化学産業、機械工業である。石油精製業を主としていることから、エネルギーや経済をロシアに大きく依存している。しかし、ルカシェンコはしたたかである。他のどの国よりもロシアに依存しながら、その独立と国境線を維持している。余談ではあるが、ロシアが経済制裁を受けているなか、「ベラルーシ産のイタリアピッツア」やら「ベラルーシ産ワイン」が人気らしいが、要は、ロシアの制裁逃れ窓口としてベラルーシは機能しているものと思われる。様々な分野でロシアに依存していることから、ロシアの経済が低調になるとそれにつられるようにベラルーシのGDPも下がる。なお、建国当初はロシアのような混乱もなく生活水準の比較的高さや、貧富の格差の少なさからロシアよりマシという考えがルカシェンコ政権を正統化する理由となっており、いまでも経済はロシアより安定推移であるといえる。 では、ベラルーシ(=ルカシェンコ)の戦略とは何か。今までのルカシェンコの戦略は、ロシアの圧力が強くなりすぎたら西側に靡き、西側の圧力が強ければロシアに靡くというのが基本な姿勢だ。これまで西側の圧力が強かったため、強固な親露スタンスと言われるまでに振舞ってきた。よって、親露スタンスは結局建前にすぎず、これがどう動くかはルカシェンコが決めることである。なお、実はベラルーシの独立には当初反対していたルカシェンコがここまでしたたかに動くのは、ロシアと統合すれば自分の権力がなくなることを危惧しているからと推測される。 西側とロシアとの綱引きの中で動くルカシェンコにとって、さらに蝙蝠外交をしやすくなっている。それは、第三極として中国が入ってきたことによる。ルカシェンコにとって都合がいいのは、ルカシェンコの独裁色を弱めることを言わないこと(アメリカはうるさい)、そしてソ連以来の国営企業や組織のコントロールを明け渡すことを求めないことにある(ロシアはこれを欲している)。 上記の事情もあり、ルカシェンコは経済的な譲歩をどこからか得ながら、どちらの陣営にも入らないということをさらに実現ができる可能性が高まる。その裏には、一方の陣営がベラルーシを取りにきたら、その反対陣営にいつでも駆け込むことができるということを示している。これがあるため、ウクライナであれだけ暴れてきたプーチンも下手なことができない。ルカシェンコという統一された指導者のさじ加減で全てが決まるため、ウクライナのように地域の一部分を御しやすいこともない。ロシアの軍事基地が「なぜ」一つもないかということは、以上の状況で分かるだろう。ルカシェンコは最終的に、国内感情を時々あおり、時々鎮圧しながら、ロシアとの微妙な距離を保ってきたことが見受けられる。 ここ最近、ルカシェンコはロシアとの公的ないがみ合いが増えたように見受ける。このような中で、ルカシェンコは西側に対して態度を軟化している。これを象徴するものとしては、アメリカとベラルーシの間で全権大使の派遣を再開することに同意したことを挙げることができる。今まで親露スタンスが強かったルカシェンコが、ロシアの圧力に対してバランスを取ろうとしていることを見て取れる。 ルカシェンコの今までだったら考えられない西側への傾倒は、ロシアによるクリミア併合が決定打であったと見られる。当時、他のロシア寄りの国が軒並みにクリミア併合賛成の発言をしたのにも関わらず、親露中の親露国家であるベラルーシが併合に賛成することを最後まで言わなかったのが、ルカシェンコの「親露スタンス」の複雑さを物語っている。これまでほぼ確実にロシアのやることを追認してきたベラルーシが、昔の石油ガスとベラルーシ統合についての定期的ないがみ合い以上に、ルカシェンコがなびかないことにびっくりしたモスクワ関係者もいると思われる。実際、主権問題について振られると最近ではベラルーシが反発し、それを黙らせるためなのかロシアが石油の動きを、政治的な理由ではないといちいち説明して止めることがある。 余談ではあるが、中国のベラルーシへの動きと米露のバランスについては非常に中央アジアの地政学的なものに似ていると考えられる。現在、ロシアは反発こそしていないが、これはロシアが中国と関係を強くしたいからである。今後は、影響圏を巡って問題になることは確実である。 ■ベラルーシはプーチン権力維持のカギ? プーチンとしては、権力者として君臨したい場合、ロシアの憲法などに手を入れるよりはロシア・ベラルーシの共通大統領として君臨するのが、ルカシェンコの同意さえ得られれば手っ取り早い。最近の圧力強化は、これが理由だろう。実は、ベラルーシ・ロシア連合国家構想は元々、側近らがエリツィン大統領を延命させる構想としてスタートしたと経緯があり、当時のルカシェンコ大統領も連合国家のどさくさに紛れてクレムリンで権力を握るという思惑が当時一致したため進められたと考えられる。結局、エリツィンが退陣したため、最終的にはロシア・ベラルーシ連合国家についての条約はほぼ骨抜きにされた。 2019年末ごろにベラルーシの主権を認めないかのようなロシアの閣僚の発言を受けて、ルカシェンコが激しく反発、そして一時的にロシアからの石油も止まった。1月16日にメドヴェージェフ内閣が憲法改正にむけて総辞職をしたということは、よっぽどルカシェンコの反発が激しいため、ベラルーシ・ロシア連合国家の枠組みを使うことで権力を維持することをプーチンが現時点で断念したとも見られる。 ■ミサイル・システムはベラルーシによるモスクワへの「恫喝」 ロシアがベラルーシにイスカンデル・ミサイルシステムを売るのを拒否した際、それを受けてベラルーシが独自で(恐らく中国と共同で)、多連装ロケットシステム「ポロネッツ」を開発した。この例からも、ベラルーシの奇妙な独立性が示されている。「ポロネッツ」はアゼルバイジャンにも輸出されている。現在、「ポロネッツ」の射程距離は300km(大量破壊兵器の運搬手段であるミサイル及び関連汎用品・技術の輸出管理体制での輸出品についての制限も300km)で、モスクワには若干届かないものの、モスクワに至るまでの都市・町が射程圏内になる。ベラルーシ産ロケットの他に中国のM20短距離弾道ミサイル(射程は300km)もモジュール交換をすれば発射できるという構造で、M20もベラルーシでライセンス製造されていると言われている。元々、射程距離が200kmほどだが、やや長くしたのが面白い。推測ではあるが、本気になればモスクワにロケットを届けることができる、というメッセージがあるのなら、今やベラルーシという必ずしもモスクワの言うことを聞かない国が、通常弾道・誘導ロケットシステムを持ってモスクワの玄関に立っているのは、なかなかの恫喝だと思われる。 ■余談 推測ではあるが、プーチンがなんらかの形でルカシェンコより先に失脚した場合は、その混乱の中から、これまでの自主独立路線を捨てて、どうにかルカシェンコはモスクワを牛耳ろうという動きに出ると思われる。 地経学アナリスト 宮城宏豪 幼少期からの主にイギリスを中心として海外滞在をした後、英国での工学修士課程半ばで帰国。日本では経済学部へ転じ、卒業論文はアフリカのローデシア(現ジンバブエ)の軍事支出と経済発展の関係性について分析。大学卒業後は国内大手信託銀行に入社。実業之日本社に転職後、経営企画と編集(マンガを含む)を担当している。これまで積み上げてきた知識をもとに、日々国内外のオープンソース情報を読み解き、実業之日本社やフィスコなどが共同で開催している「フィスコ世界金融経済シナリオ分析会議」では、地経学アナリストとしても活躍している。 写真:ロイター/アフロ 《SI》
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