マーケット
11/22 15:15
38,283.85
+257.68
44,296.51
+888.04
暗号資産
FISCO BTC Index
11/24 13:02:16
15,185,290
フィスコポイント
保有フィスコポイント数
  
今月フィスコポイント数
  

人事からひも解くバイデン次期米国大統領の政策と我が国の対応(元統合幕僚長の岩崎氏)

2020/12/21 17:04 FISCO
*17:04JST 人事からひも解くバイデン次期米国大統領の政策と我が国の対応(元統合幕僚長の岩崎氏) 2020年もいつの間にか12月となった。コロナに始まり、コロナで終わろうとしている。米国では11月3日の大統領選挙の結果を受けて、バイデン氏が新政権発足に向け着々と人事を進めている。バイデン氏のこれまでの主張や既に報道されている新政権の人事から、バイデン政権での米国の外交・安全保障の今後を読み取りたいと思う。 これまでに、国家安全保障担当の大統領補佐官にはジェイク・サリバン氏、国務長官にはアントニー・ブリンケン氏、そして国防長官にはロイド・オースチン氏の起用が発表されている。 バイデン政権での外交・安全保障の要は、ジェイク・サリバン大統領補佐官である。彼はオバマ政権で国務省政策企画局長や副大統領補佐官を務めた経歴の持ち主であり、「外交政策と経済政策をより一体化させるべき」との考え方を持っている。また、バイデン氏は「サリバン氏は、私のビジョンである経済・安全保障は国家安全保障である事をよく理解している」とも述べている。サリバン氏は、これまでの外交・安全保障に経済を加えたより幅広い政策が必要であると唱えており、バイデン次期大統領と一致した外交・安全保障観を有している。最近の中国の経済力を背景とした、特に開発途上国へのアプローチを考えれば、経済を含めた外交・安全保障を考えることは極めて重要な事である。 国務長官に起用されるアントニー・ブリンケン氏は弁護士出身であり、バランス感覚のある中道派とされている。オバマ政権で国務副長官を務めており、外交政策に長年関わってきている大ベテランである。これまでに「米国は、中国にない同盟関係の強みがある。」との発言が示すとおり、トランプ政権で弱くなった同盟国や友好国との関係を再構築し、中国に対応すべきとの考え方を持っている。また、彼は比較的穏健な中道派であるものの、バイデン氏がブリンケン氏の国務長官起用を公表した記者会見で人道主義の大切さを強調する等、人道の為に軍事介入も辞さないとの強い考え方をも有している。 そして国防長官候補であるロイド・オースチン氏は、2016年に退役した陸軍大将である。彼の最終補職は、米中央軍司令官であった。オースチン氏は、軍歴41年に及ぶ経歴を有する陸軍大将であり、イラクやアフガン等の戦場での経験が豊富で、中央軍司令官の時にイラクからの米軍の撤退作戦を指揮した。軍に於いて撤退作戦は、侵攻作戦に比較して、その難易度がかなり高いと言われている。そして、もともと彼は、米軍のイラクからの完全撤退に反対していたものの、イラクからの米軍の撤退がオバマ政権の公約であったことから、命令に従ってイラクからの撤退作戦を指揮し、これを完璧にやり遂げた事で一躍有名になった。しかし、米軍が撤退したイラクでIS(イスラム国)が蔓延り、米国が軍の再派遣をせざるを得なくなってしまったことは、皆さんのご承知のとおりである。彼は、現にこの状況を冷静に見極め、イラクからの米軍の完全撤退に反対していたのである。彼の先見性の現れと言っても過言ではないであろう。彼の退役は2016年である。米国で軍人は退役後7年間、国防長官に就けないとされる連邦法があるため、議会で特例承認受ける必要がある。 米国の外交・安全保障を司るキーパーソンは、バイデン次期大統領を筆頭として、以上の三名である。これまでも述べたとおり、まず米国は、トランプ政権下で崩れつつある同盟国との関係を再構築する必要がある。イランやシリア等においては、EU/NATOとの関係再構築・強化である。そして対中国やロシアを考慮すれば、日本、韓国、オーストラリとの関係強化である。そしてこの同盟関係の強化を、友好国へと派生させていく事が必要である。 一方、中国は「一帯一路」政策によって、中国から欧州に至る「陸のシルクロード」及び「海のシルクロード(南シナ海~マラッカ海峡~インド洋~紅海~スエズ運河~地中海)及び南太平洋ルート(南シナ海~ミクロネシア~メラネシア~ポリネシア)=米・豪/日・豪分断」に当たる各国との連携強化、特に経済力を自由に行使し、各国との結びつき強化し、時に債務の罠等で属国化させる等の計画を進行させつつある。既に、スリランカの南部にあるハンバントタ港は中国が港湾運営権を握っている。パキスタンとはCPEC(中国・パキスタン経済回廊)プロジェクトが進行しており、パキスタンの港を自由に使うことが可能となっている。そして紅海の出入り口にあたるジプチには破格な投資を行って中国の専用港を建設している。一方、中国は、南太平洋の島々にも積極的に接近している。ソロモン諸島、キリバスには台湾との国交を断絶させ、サモアやバヌアツでは中国の投資による港湾建設が行われている。 今回の米国の大統領選でトランプ氏からバイデン氏に政権が移行されることで、習近平としては一息をついているのではと思われる。そして早速、中国側から米国に協力的・競争関係の樹立を呼びかけている。国連総会では他加盟国に同調し、二酸化炭素排出量をゼロにすることを主張し、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)に積極的に参加し、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への参加をも検討していると公表した。 しかし、中国の本心は果たしてどうなのであろうか。習近平がオバマ大統領を訪問した際、オバマ大統領は習近平の罠(?)に嵌り、「米国は最早、世界の警察官ではない。今後は二つの大国(米国と中国)が世界をリードしていく」との旨の発言をされた。そして、オバマ大統領が中国の南シナ海での埋め立てに関して警告を発すると、習近平は「南シナ海の埋め立ては今後行わない」、かつ「南シナ海の埋め立て地を軍事化することはない」と明言している(しかし、この時点で中国は計画のほぼ全てを完了していた)。ところが2~3年後には、この埋立した島々に滑走路が作られ、対空警戒の為のレーダーが設置され、防空の為のミサイル部隊も配備された。そして「自国領域の主権を守る事は当たり前」と言い放っている。二枚三枚舌である。中国が地域の国々や世界の各国と本当の意味で協力関係を構築することは大歓迎であるものの、我々は、これまでの中国が発言してきたことと、彼らが実際に行ってきたことが全く異なっていた事を決して忘れずに中国と付き合っていく必要がある。 さて、この様な国際環境の中で我が国はどうすべきだろうか。このコロナ禍に於いて、各国の経済が低迷し、多くの国で対前年比マイナス成長が伝えられる中、中国の経済成長はプラスとの予測がされている。驚異的な経済成長である。日本経済研究センターの予測では、Covid-19の影響からの回復シナリオによって若干の違いはあるものの、2030年以前に中国の名目GDPが米国を抜くとの予測が出されている(標準シナリオ:2029年/深刻シナリオ:2028年)。その様な状況の中では今後、米国だけで中国に対応することは出来ない。当に、ブリンケン氏が言われているとおり、同盟力の強化で対抗する以外にはない。我が国に対する米国やオーストラリ、英国等の欧州各国の期待がますます高まることは間違いないであろう。 そこで、私は以下の点について提案したい。先ず、第一に我が国の「国家安全保障戦略(NSS)」の見直しである。我が国を取り囲む環境が既に全く変わってきている。そして、米国も政権が交代し、来年中には新「国家安全保障戦略(NSS)」、新「国家防衛戦略(NDS)」、そして新「国家軍事戦略(NMS)」が発出されるであろう。我が国も遅れをとらない様、新年早々から検討を開始すべきである。そして、我が国は戦略体系を見直すべきである。我が国はNSSを受けて、「防衛計画の大綱(NDG)」を策定しているが、米国同様にNSS-NDS-NMSの体系にすべきである。また、これらの戦略の中で、同盟国や友好国との更なる連携を強化するため秘密保護法の更なる充実を図るべきである(セキュリティ・クリアランスをファイブ・アイズ並みにし、出来ればこのサークルに入ることも目指すべきである)。 そして、第二には、自衛隊の更なる能力向上・強化である。現在の「大綱」にも示されているとおり、新領域である宇宙・サイバー・電磁波分野での能力構築をこれまで以上に急がないといけない。また、従来(陸・海・空)領域の充実が必要である。特に総合ミサイル防空能力の向上及びスタンド・オフ能力向上を早急に行う必要がある。 第三に継戦能力・抗堪性の向上、そして人的基盤強化である。戦いを継続する為には燃料と弾薬が必要であり、被害復旧能力も大切である。そして、少子化の中での人的基盤の確保を真剣に進める必要がある。AI/ITの活用も必要であるが、やはり人間である。限られた自衛官の有効活用を推進すべきである。職種や配置によっては定年年齢を延長させることも有効な対応策である。 第四に装備体系の抜本的な見直しと防衛技術基盤の強化である。我が国はF-35A/Bを導入中である。これら戦闘機は、これまでの戦闘機と言う概念を超える機能・能力を保有している。例えば、これら戦闘機は情報収集・分析・配布能力をも保有しており、偵察機が必要なくなり、一部分はAWACS(早期警戒管制機)的な運用も可能である。また、長年の間、我が国は台頭する圧倒的な相手方に対応するため、米国製の武器等をFMS(Foreign Military Sales)による直接輸入に頼ってきた。このため、我が国の防衛産業が高性能な装備品を製作する事も、場合によっては整備する事にも携われない事態が続き、我が国の防衛産業は疲弊しつつある。防衛産業の強化無くして戦いを継続することが出来ない。 米国の新政権誕生とともに我が国への米国からのみならず、多くの友好国からの期待が大きくなってきている。我が国が確りと国際的な役割を果たすことが求められている。(令和2.12.18) 岩崎茂(いわさき・しげる) 1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。 写真:AP/アフロ 《RS》