日本電技 Research Memo(5):「ND For The Next 2030」で長期成長を実現へ
2024/1/17 13:05
FISCO
*13:05JST 日本電技 Research Memo(5):「ND For The Next 2030」で長期成長を実現へ
■日本電技<1723>の中期経営計画
1. 長期経営指針「ND For The Next 2030」
社会構造の変化やデジタル化を背景に技術革新のスピードが加速している。こうした経営環境の変化に対応し、既存事業の強化と成長領域を見極めた事業拡大を推進するため、同社は2021年に長期経営指針「ND For The Next 2030」を策定した。これまで培ってきた技術資産である「計装エンジニアリング」の総合力を背景に、建築物の省エネ化による環境負荷低減や脱炭素社会実現への貢献、デジタル技術を活用した高付加価値サービスの提供を通じた顧客満足度の向上、サステナビリティを巡る課題解決への貢献を通じた持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図るとともに、人材確保・育成に向け人的資本投資を充実させることで、2031年3月期にROE10%以上、営業利益60億円、売上高450億円を目指す。そして「ND For The Next 2030」を、成長基盤を構築する「第1フェーズ(2021年~2023年度)」、成長を実現し事業品質の向上を進める「第2フェーズ(2024年~2027年度)」、さらなる飛躍と挑戦をする「第3フェーズ(2028年~2030年度)」の3つのフェーズに分けて、それぞれ中期経営計画を策定することで着実な成長につなげる考えだ。
ポイントは企業価値の向上
2. 「第2フェーズ」のポイント
「第1フェーズ」の進捗は、首都圏や地方の都市再開発、半導体工場やデータセンター・物流センターの新築工事を背景に非常に良好だった。このため、受注高385億円、売上高365億円、営業利益47.5億円、ROE10%以上という目標をクリアするのはほぼ確実な状況である。「第2フェーズ」では、こうした足元の状況に加え、都市再開発のピークが2027年に後ずれしていること、2024年問題を前に効率化策を講じていることなど、内外の環境変化を新たな財務目標に織り込むことになりそうだ。
一方、非財務目標としては、2030年度のありたい姿に向けて、サステナブルな企業経営を目指して、ESG経営を加速することになろう。E(環境)では、気候変動に対応する取り組みを加速、TCFD※1に基づいた情報開示及びパリ協定が求める水準と整合したSBT(Science Based Targets)※2目標の設定を目指す。そのため、2023年10月に脱炭素社会実現へ貢献することを目的に気候変動対応プロジェクトチームを設置し、グループの温室効果ガス(GHG)排出量(Scope1~3)の算定を開始、次期中期経営計画期間中にSBT目標を設定し、SBTの認定取得を目指す。S(社会)では、中長期戦略として、人的資本の充実と人材力の最大化を掲げ、多様な人材が活躍できる職場づくりを目指して社内環境を整備する計画である。そのため、技術研修の充実や、初任給・ベース年収など賃金の改定、人権方針の策定、認知度やモチベーション向上につながる男子プロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」とのオフィシャルパートナー契約の締結などを進めている。G(ガバナンス)では、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向け、コーポレートガバナンス・コードに準拠した実効性のあるガバナンス体制を目指す。そのため、英文開示・個別IRの充実やコーポレートコミュニケーション課の設置などによるIR体制の充実、より業績に連動した役員報酬への改定、資本政策、資本コスト経営の推進を図る。
※1 TCFD:金融安定理事会(FSB)により設置された気候関連財務情報開示タスクフォースで、各企業に気候変動に対して取り組みの計画や現状を具体的に開示することを推奨している。
※2 SBT認証:パリ協定と整合性のあるGHG排出削減目標を立てていることを示す国際認証。
PBR向上は「第2フェーズ」の重要な非財務目標
3. 企業価値の向上に向けて
なかでも企業価値の向上を図ることは喫緊の課題と位置付け、資本コストを意識した経営を進める方針である。ROEを全社の目標経営指標として設定し、推定資本コスト6%を上回る8%を下限に10 %の達成を目標とした。また、ROIC(投下資本利益率)を事業別の経営指標として設定し、事業別のWACC(加重平均資本コスト)とROICを定期的にモニタリング、事業別の経営資源分配や投資の可否判断などでROICに基づく経営管理の浸透を図る。既に、東京証券取引所(以下、東証)による「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請に基づき、株価を意識した経営を進めている。
東証はPBR(株価純資産倍率)1倍割れの会社に対して課題を投げているのだが、同社は現状PBR1倍を超えてはいるものの、成長戦略の実践と資本収益性の向上により持続的に市場に評価される企業価値を創出し、PBRのさらなる向上を目指す。PBRを向上させるということは、ROI(投資利益率)の向上、株主還元の強化(後述)、インセンティブ型報酬への改定といった既存施策に加え、成長投資を通じた収益性向上、サステナビリティへの一層の取り組み、開示・IR の充実といった策も強化することになる。そうした点で、PBRの向上は「第2フェーズ」の重要な非財務目標という位置付けになろう。なお、次期中期経営計画は2025年3月期~2028年3月期の4ヶ年中期経営計画になる見込みで、詳細は2024年3月期決算説明会で公表される予定である。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 宮田仁光)
《HH》