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潮目の変化:台湾の半導体セクターが相次いで中国から撤退(2)【中国問題グローバル研究所】

2024/5/14 16:06 FISCO
*16:06JST 潮目の変化:台湾の半導体セクターが相次いで中国から撤退(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「潮目の変化:台湾の半導体セクターが相次いで中国から撤退(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。 習近平の「新質生産力」戦略 習近平の「新質生産力」戦略は、半導体業界を取り巻く環境に多大な影響を及ぼしてきた。特に中国国内ではその影響が顕著であり、台湾のパッケージング・テスト大手企業は戦略の練り直しを余儀なくされている。 この戦略の登場により、中国政府が新たな質の生産力の育成に力を入れるようになり、半導体業界の競争力学が再構築された。質の生産力の育成が重視されるにつれて、補助金やリソースが国内企業に優先的に配分され、競争環境を変化させたのである。 台湾企業はコスト圧力の高まりと失注リスクを受け、競争力を維持し、市場シェアを確保するため中国工場の売却を強いられた。この戦略的な行動は、コスト最適化を容易にするだけでなく、習近平のイニシアチブの目的にも沿う。 今後は、中国の国内サプライヤーへの支援が強化されることで、競争環境の再構築が進む可能性がある。半導体などの極めて重要な産業全体で自給自足の強化が推し進められており、中国での事業継続の理由が急速に失われてきている。 中国の半導体パッケージング・テスト業界ではここ数年、競争が激化しており、「インボリューション(内巻)」と呼ばれる現象を招いていた。台湾企業の撤退理由の1つに、この現象がある。京隆科技の売却先の1つである通富微電を例に説明する。同社の昨年の収入は、京隆科技のそれをはるかに超える1,000億ニュー台湾ドルに達した。だが、中国政府からの補助金を差し引くと、純利益はわずか2億7,000万元で、京隆科技のそれをはるかに下回る。これは、中国の半導体市場の価格競争の熾烈さを物語っている。 さらに、マイクロコントローラユニット(MCU)とパネルドライバICの主要企業による、台湾から中国国内のウェハー製造への戦略的な乗り換えは、半導体バリューチェーンのダイナミクスの変化を如実に表しており、中国国内への生産プロセスの集約が重視されていることがよく分かる。 こうした動向を受け、台湾の半導体企業は戦略の優先順位を再評価し、地政学的環境と経済環境の変化に対応する必要がある。現在、半導体業界は習近平の「新質生産力」と中国の技術的野心によってもたらされる複雑な状況で困難な調整を余儀なくされている。競争が激しさを増す環境で企業が生き残るためには、アジリティを高め、イノベーションを起こす必要がある。 台湾半導体企業の次なるステップ 台湾のパッケージング・テスト企業は、急速に変化する戦略環境に直面しており、課題が増大する中、競争力を維持するためには将来を見据えたアプローチが必要となる。地政学的ダイナミクスが変化する中で台湾の半導体企業が生き残るためには、アジャイルな戦略をとる必要がある。 台湾企業は、地政学的緊張による影響と半導体業界の力学の変化に対処しながら、中国の同業他社との技術格差を拡大するための方策を模索せざるを得ない。品質とイノベーションを重視する台湾企業は、厳しい品質要件を持つ顧客から選ばれるパートナーとなるために戦略的な準備を行い、優れた技術力を活かして市場での差別化を図っている。 京元電子にとって、蘇州工場の売却は、戦略の道筋の転換点となる。さらに、台湾の半導体テスト施設においては、中国市場に関連する課題に対処しつつ、成長と拡大を目指す代替策を模索している。 同社はこうした戦略的な動きに加えて、今年、設備投資額を70%も増やすという野心的な計画を発表した。この積極的な見通しは、高性能コンピューティング(HPC)や人工知能(AI)など急成長セクターにおいて、今後大きなビジネスチャンスが生まれるという京元電子の確信を示している。同社の高度なテストシステムへの戦略的投資は、重要な顧客である米国企業のニーズの変化に対応し、世界の半導体エコシステムのリーダーとしての地位を強化するという同社の姿勢の表れにほかならない。 さらに、台湾の半導体テスト施設は、中国市場がもたらす課題に対処する中で、成長と拡大を図る代替策を模索している。台湾への資金と技術の還流に加えて、これらの企業は東南アジアやメキシコなど新たなアウトソース国に新たなチャンスを見出している。友好的なアウトソース国の出現により、台湾企業は生産拠点を多様化し、地政学的不確実性にともなうリスクを軽減する戦略的チャンスを得ることができた。 一方、中国のニアショアアウトソーシング戦略は、ローテク産業あるいは労働集約型産業の国内集約を奨励することで、米国による対中関税引き上げに対抗する、総力を結集しての取り組みにほかならない。こうした戦略のシフトを受け、備品やハードウェアなどの業界では、メキシコへの拠点の移転が急増している。その後押し要因である米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)で関税が免除されることから、生産性が急激に向上しており、メキシコではこれら業界が対米輸出で不可欠な存在となった。 結論 世界の地政学的情勢が複雑化する中、半導体業界は知らぬ間に不確実性の渦に巻き込まれ、京元電子など台湾の大手企業は、戦略の優先順位を徹底的に見直す必要がある。地政学的緊張の高まりに対処するために、将来を見据えたアプローチを取り、リスク軽減と持続的な成長やイノベーションを両立させる代替戦略を模索することが台湾の半導体企業にとって不可欠である。 中国子会社の売り急ぎは不確実性に直面する今、賢明な選択に思えるかもしれないが、台湾企業はそうした決定がもたらす長期的な影響を慎重に見極めなければならない。全面的な売却の代わりに、ニアソーシングやフレンドショアリングを有効な代替策として検討する必要がある。ニアソーシングにより、企業は中国における戦略的プレゼンスを維持しながら、同国の主要市場への近接性と熟練した労働力へのアクセスを活用できる。フレンドショアリングは、米国に本拠を置くサプライヤーとのパートナーシップで明らかなように、サプライチェーンの多様化と、地政学的緊張の高まりに伴うリスクの軽減を図るチャンスをもたらしてくれる。 加えて、台湾の半導体企業は、東南アジアやメキシコなどの友好国にアウトソーシングすることで、新たなチャンスを生かすことができる。生産拠点を多様化することで、企業は一つの市場への依存を減らし、地政学的不確実性の高まりにともなうリスクを軽減することができる。 また、台湾の各業界は、研究開発とイノベーションに優先的に投資をし、世界の半導体エコシステムにおける競争力を維持すべきである。新しいテクノロジーを採用し、新たな市場トレンドに適応することで、台湾企業は、地政学的課題に関係なく、業界のリーダーとしての地位を確立できる。 習近平国家主席が新質生産力の育成に力を入れる今、台湾の半導体業界はアジリティと変化対応力を保持しなければならない。イノベーションと戦略的洞察力を活用することで、台湾企業は急激に変化する地政学的環境に対応し、今まで以上に強力な組織となり、半導体エコシステムにおけるグローバルリーダーとしての地位を確立することができるのである。 写真: SPIL (※1)https://grici.or.jp/ 《CS》