*10:30JST 中国の若者の失業問題: 課題にうまく対処し、持続可能な未来を創造する(2)【中国問題グローバル研究所】
◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「中国の若者の失業問題: 課題にうまく対処し、持続可能な未来を創造する(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。
4.教育と雇用のミスマッチの軽減
世界各地で歴代最高気温を更新する酷暑のなか、中国では新卒者の雇用市場が厳寒期に突入したようだ。政府が推し進める農村部での雇用促進策だけに頼っていては、この問題に十分に対処できない。中国の若い世代の失業危機を解消できる可能性があるのは、国内経済の緩やかな回復と個人消費の持ち直し、市場の見通しに対する民間企業や国有企業の信頼の回復だけだ。
人材ミスマッチを軽減するためには、包括的な戦略を策定する必要がある。この戦略には教育とスキル育成への重点的な投資が求められる。つまり雇用市場と個人、両方のニーズに焦点をあてた施策だ。教育側と雇用側の連携を促すことで、新卒者は適したスキルと適応能力を身につけ、社会人になる準備をしっかりと整えることができるようになる。
若い新卒者のための持続可能で、インクルーシブな雇用市場を創出するには、政府と教育機関、民間セクターとの間の連携を伴う、より包括的な長期的アプローチが必要となる。適したスキルを身につけさせ、適した雇用機会を提供し、自分の能力を十分に発揮できるようにさせることで中国は若手人材の明るい未来を築き、また国全体の経済的成長と安定を確保できる。
若者の失業問題に対処するうえでの主要なポイントの1つに、雇用市場のニーズへの教育機関による対応があげられる。業界と緊密に連携して学生に実践的なスキルと知識を身につけさせるような、現状に即したカリキュラムを設計することが大学には求められる。インターンシップや実習など実践的に学ぶ機会を設けることで、教室で教わる理論と実際に仕事で求められるもののギャップを埋めることが可能なのだ。
起業の奨励とスタートアップの支援もまた、若い新卒者が能力を十分に発揮できる環境づくりに欠かせない。政府は、良好なビジネス環境を整え、金銭的インセンティブ策を講じ、事業を立ち上げるにあたっての煩雑な手続きを簡素化する政策を打ち出すことができる。スタートアップの強固なエコシステムの構築により、雇用創出を活性化し、イノベーションを推進し、優秀な人材を誘致することができる。それが、求職活動をする新卒者の増加を吸収する一助となる。
構造的な失業問題に対処し雇用創出を促進するため、中国政府は中小企業の支援に特に力を入れており、7月19日には民間企業の発展支援に向けた31項目の方針を発表した。これは、民間企業の成長を支援・促進し、起業とイノベーションに資する環境を整えることを目的としたものだ。中小企業は多くの国・地域で雇用に大きく貢献しており、中国の経済活動でも不可欠な役割を果たしている。的を絞った資金援助と事務上の手間の軽減、リソースへのアクセスの容易化によって中小企業は好業績を収めることができるようになり、それが雇用市場の多様化と弾力化につながる。
さらに、テクノロジーとデジタルトランスフォーメーションを活用することで、新たな雇用機会を創出できる。ハイテク産業とデジタルプラットフォーム、eコマースの振興を促せば、ITからマーケティングや物流まで、さまざまな分野で新卒者が働く門戸を開くことができる。
5. 結論
厳しい雇用環境下にあるにもかかわらず、意義ある仕事を見つけるという夢を諦めきれない若い新卒者は多い。たとえ困難に直面することになるとしても、自分のスキルや興味に合致する仕事に就きたいと願っているのだ。だが、現在の雇用市場では必ずしも自分の望む雇用機会に巡り合えるとは限らない。
中国では現在、デフレリスクが強まっており、若者の失業問題への対処の必要性が一段と高まっている。「上山下郷」プログラムのような政府の施策は一時的な解決策となるかもしれないが、今の複雑な雇用状況には十分に対処できない。
失業問題の影響を受け入れ、国家のニーズに資することができるところで雇用機会を探すよう若者に求める中国政府の姿勢は、現状に対処する当局の尽力を反映している。だが、このアプローチを個人の希望や才能を重視するものではなく、政府が必要とする職に新卒者を就かせる手段に過ぎないと考えるネット市民は多い。
中国経済が厳しい時期を乗り越えようとする今、若い人材が持つポテンシャルを未来の成長とイノベーションの原動力と認識することが不可欠だ。若者のポテンシャルを引き出し、経済的繁栄を実現させるうえで、優秀な人材の育成、起業の奨励、スキル育成を促進する環境の整備が欠かせない。
中国政府は今こそ、若者の失業問題に対処するには包括的かつ長期的なアプローチが必要であることを認識すべきだ。継続的な研修プログラムやリスキリングプログラムを導入すれば、若い新卒者のエンプロイアビリティ(就業能力)を高めることができる。また、専門能力の育成コースや認証制度の整備は、新卒者が雇用市場の需要の変化に対応し、競争優位性を獲得する一助となる。
同時に、生涯学習の文化を推進し、個人が職業人生を通じて自らのスキルと知識を高め続けることを奨励することも非常に大切だ。継続的学習に力を入れることで、対応力と適応力が高く、新たなチャレンジにいつでも挑むことができる人材を生み出せる。
最後に、若者の失業問題への対処では政府と民間セクター、教育機関、そして社会全体が協調して取り組むことが不可欠となる。力を合わせることで、ステークホルダーはチャンスを見極め、雇用市場をよりインクルーシブで持続可能なものにし、市場の活況をもたらす包括的な戦略を打ち出すことができる。
結論として、次のようなことが言える。中国では若者の失業者が急増し、革新的かつ包括的な解決策が必要であることが浮き彫りとなった。この問題に対処するには、教育改革や起業支援から、ダイナミックな雇用市場の醸成や継続的学習の推進まで、幅広く多面的なアプローチが必要だ。適したスキルを身につけさせ、適した雇用機会とリソースを提供し、新卒者が自分の能力を十分に発揮できるようにさせることで、中国は若者のポテンシャルを引き出し、より明るい経済の未来を切り拓くことができる。
写真: HUAI'AN, CHINA - JULY 1, 2023 - College students choose jobs at a job fair for 2023 graduates in Huai 'an City, East China's Jiangsu Province, July 1, 2023.
(※1)https://grici.or.jp/
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