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プーチン大統領の思惑、今回のウクライナ騒動を理解するには(元統合幕僚長の岩崎氏)(1)【実業之日本フォーラム】
2022/3/1 10:48
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*10:48JST プーチン大統領の思惑、今回のウクライナ騒動を理解するには(元統合幕僚長の岩崎氏)(1)【実業之日本フォーラム】 昨年末からウクライナ国境沿いでの緊張が高まっていることが世界中で、そして我が国でも、連日、報道されている。ロシアがウクライナ国境周辺や隣国のベラルーシに十数万の大規模なロシア軍を展開し、ロシア軍単独の大規模演習やベラルーシ軍との合同演習等を行い、米国、欧州各国、NATO(北大西洋条約機構)の説得にも拘わらず、ウクライナ侵攻を開始した。プーチン大統領は、今後ウクライナをどうしようと考えていのであろうか。 最近の大規模な軍事侵攻の例を見てみよう。この様に他国との国境付近で演習等を行いつつ、機を見て軍事侵攻したケースが何例か上げられる。最も記憶に新しい事態は、「イラクのクウェート侵攻」であろう。1991年6月から7月にかけて、イラクがクウェート国境沿いに大規模な軍を展開し、大演習を行った。そして、同年8月2日、一挙にクウェートへ侵攻し、アッという間にクウェートを制圧、イラクのフセイン大統領は8月8日にクウェート併合を宣言したのである。この際、イラク軍のクウェート侵攻の兆候こそあったものの、米国を始めとする西側は、その兆候を結果的に活用することが出来ず、イラク軍の侵攻に際し、何の対応も取ることが出来なかった。それから米国等は、約半年をかけて多国籍軍を編成し、ペルシャ湾やその周辺諸国に大部隊を展開させ、闇夜である新月の夜を見計らい1992年1月17日、「砂の嵐」作戦を開始した。作戦当初、昼夜を問わない航空攻撃(戦闘機や爆撃機及び巡航ミサイル攻撃等)を行い、政治の中心は当然のことながら、イラク軍の司令部、航空基地、陸軍駐屯地、対空警戒網、対空ミサイル部隊、通信網等の殆どを破壊した。約1ヶ月後の2月23日から地上軍がクウェート国内及びイラク国内に展開し、約100時間でイラク軍をほぼ完璧に撃退し、多国籍軍は戦闘行動を停止したのが2月28日であった。 これが所謂、「湾岸戦争」である。典型的な「大部隊の展開」→「演習」→「侵攻」→の「征服」のストーリーとなる。この他にも、1979年12月末、ソ連はアフガンへ大部隊を侵攻させた。この際も、ほぼ同じ手口で、アフガン国境周辺で大演習を行い、その後、機を見て侵攻したのである。残念ながら、この時も西側は無警戒であった。 一般的に、ある国へ軍事侵攻(進攻)する為には膨大な兵力が必要である。前述の様に「湾岸戦争」の際にも、米国を主体とする多国籍軍は、約半年かけて兵力をイラク周辺諸国及びペルシャ湾に展開させた。そして、当該国や地域を占拠する(統制下におく)には陸上兵力(陸軍や海兵隊等の兵力)が必要である。空軍や海軍では、物理的に首都や政治・経済の中枢、そして軍の拠点等を攻撃・破壊することができるものの、常続的に占拠することが出来難いからである。そして、この陸上兵力(陸軍や海兵隊等)の移動には、他軍種よりも遥かに長い時間(期間)が必要であり、大部隊の移動は、相手方に簡単に発見される。演習名目が常套手段である所以である。また、どんな作戦でも入念な事前訓練が必要である。 一般的に、各国軍隊は基礎訓練から高度な作戦訓練まで行っているが、これは飽くまでも一般的な訓練・演習であり、概ね全ての作戦に適合するものの、ある作戦の成功を確実にするには、事前の訓練・確認が必要である。これは、特殊作戦であろうが、大部隊を動員する作戦であろうが同じである。 さて、世界の予測を裏切って、ウクライナ侵攻を開始したプーチン大統領の思惑はどこにあるのだろうかということ、彼のエンド・ステイは、について考えてみたい。そこで、プーチン大統領の今後の行動を予測するために知っておくべきことがある。一つは、第二次大戦後の欧州方面での米国・NATO vsロシア (ソ連)・WPO(ワルシャワ条約機構)の対立の経緯である。また、2014年にプーチン大統領が突如(彼とっては入念な計画どおり)、クリミア半島をロシアに併合したことも忘れてはいけない。 1.欧州での米ソ対立の経緯 米ソは、もともと考え方が根本的に異なっており、一度も心から理解しあったことがない国同士である。これは、何も第二次世界大戦後のことではない。第二次世界大戦は、ソ連が一応、連合国側として日・独・伊の枢軸国、特にドイツと戦ったものの、結果論として連合国側の一員であり、偶然にも共通の敵が出現すれば、一緒に協力し合うことがある。この類とさほど変わらない連携である。米・英の確固たる連携からすれば、連合国側のソ連との関係は、かなり緩やかな連携であった。 第二次世界大戦の半ば以降、枢軸国側が形勢不利となり、先ずイタリアが陥落し、ドイツ国内にも連合国軍が入る様になった。米・英軍は、ドイツを西側から東進し、一方のソ連軍は西進した。そして、両軍は、遂に1945年4月25日、ベルリンの西側(ドイツ中央部から若干東側)を南北に流れるエルベ川で出会うことになった。有名な「エルベ川の誓い」である。 その後、5月7日、ドイツは、ポツダム宣言(無条件降伏)受諾の文書に署名し、ヨーロッパ戦線は終結した。結果的に米ソ両軍は、ほぼそのままドイツに残留したので、エルベ川の西側に米・英軍が、東側にソ連軍が駐留することになり、実質的なドイツの分断が始まった。 アジアでは、ドイツの降伏後、単独で連合国と戦っていた日本が1945年8月15日、連合国側の提示した無条件降伏の受諾を表明した。9月2日、東京湾の戦艦ミズーリ—上で降伏文書の調印式が行われ、第二次世界大戦が終わった。 終戦直後、米・英は二度とこのような惨禍が欧州で起こらない様、1949年4月4日、米・英を中心とした12ヶ国によりNATOを設立した。一方のソ連を中心に東欧諸国8ヶ国が参加したWPO(友好協力相互援助条約)が1955年5月14日に立ち上げられ、これにより米ソの対立は、NATO vs WPOとなっていった。 また、米国は第二次世界大戦中に核能力を持ち、広島・長崎に投下した。一方のソ連は、米国に遅れはとったものの、1949年8月には核実験に成功したことを公表した。米国のトルーマン大統領は、ソ連の意外にも早い核開発成功を知り、原子爆弾(核分裂)より遥かに大きなエネルギーを放出する水素爆弾(核融合)の開発に踏み切った。しかし、原子爆弾であろうが水素爆弾であろうが、破壊力が大きすぎ、事後の放射線の影響も長く残留することから、使用し難い兵器であり、両国ともこれまでの様な混獲的な戦争を始めることが難くなった。これが所謂、「冷戦」である。この「冷戦」には明確な定義はないものの、この様な核競争、米ソ(NATO/WPO)対立、そしてドイツの分断(ベルリンの壁)等が象徴的なものとされた。 この米ソの対立は、長く続いたものの、1980年代に入り、ソ連経済が徐々に低迷し始め、1989年11月には「ベルリンの壁」が東西のベルリン市民により崩された。ソ連のゴルバチョフ書記長は、最早、米国等とこれ以上対峙することが出来ないと判断し、1989年12月2~3日、米国のブッシュ大統領と地中海のマルタ島沖に浮かぶロシアのマキシム・ゴーリキー船上で会談を行った。これが「マルタ会談」である。会談後、米ソ首脳は、米ソ首脳による初の共同記者会見に臨み「冷戦終結宣言」を行い、長い間の「冷戦」に終止符が打たれた。その後もソ連の凋落は続き、遂に1991年7月、WPOが解散され、同年12月25日、ゴルバチョフ書記長はソ連大統領やソ連共産党書記長等の役職を全て辞任することになり、ソ連は崩壊した。 一方のNATOはソ連が崩壊するまでに着々と勢力を拡大し16ヶ国になっていたが、1994年1月のNATO首脳会議で、「NATO拡大方針」を打ち出し、1999年にはポーランド、チェコ、ハンガリーの3ヶ国を、2004年にはバルト三国、スロバキア、スロベニア、ブルガリア、ルーマニアの7ヶ国を、更に2009年にはアルバニア、クロアチアの2ヶ国を加え、そして最近では更にモンテネグロ・北マケドニアも参加することとなり、現在では30ヶ国まで拡大してきている。 これは、ロシア側からすれば、米国やNATOの脅威が一歩、一歩モスクワに近寄ってきていることであり、安全保障上許し難い状況と感じていたことは簡単に予測される。 「プーチン大統領の思惑、今回のウクライナ騒動を理解するには(元統合幕僚長の岩崎氏)(2)【実業之日本フォーラム】」に続く。 岩崎茂(いわさき・しげる) 1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。 写真:AP/アフロ ■実業之日本フォーラムの3大特色 実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。 1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム ・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する ・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う 2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア ・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く ・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える 3)「ほめる」メディア ・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする 《FA》
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