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新型コロナと米大統領選(1)

2020/10/16 16:22 FISCO
*16:22JST 新型コロナと米大統領選(1) 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているフレイザー・ハウイー氏の考察を2回にわたってお届けする。 ——— ◆コロナ3人組 ドナルド・トランプ氏が新型コロナウイルスに感染したのは何となくうなずける。これで新型コロナへの対応がずさんだった国のリーダー3人がそろって感染した。英国のボリス・ジョンソン首相に始まり、ブラジルのジャイール・ボルソナロ大統領、そして米国のトランプ大統領だ。3人とも新型コロナウイルスを軽視し、握手や、密集での自由な交流、マスク着用などに関して基本的な予防措置を敬遠した。トランプ氏の陽性判明の数日前に行われ大混乱となった大統領選候補の討論会で、トランプ氏は民主党のジョー・バイデン氏のマスクを嘲笑したばかりだった。バイデン氏がトランプ氏から感染することはなかったようだが、今後の数週間、数カ月に何が起こるか誰にも分からなくなった。仮定のシナリオは無数にある。選挙の前にどちらかの候補者がウイルスで倒れたらどうなるのか。 選挙終了後に明確な勝者がいた場合、その勝者が就任式前にウイルスで倒れたどうなるのか。 こうした事態の扱いについては法律上の規定と手順があるとはいえ、不穏な危うい政治状況の下では何があってもおかしくはない。 当コラムでは、トランプ氏の対中政策が多くの分野で稚拙なことを嘆いてきたが、新型コロナウイルスではすでに多くの命が奪われており、早期に回復して長期の影響がないことが望まれる。治療法は進歩しており、トランプ大統領には最高の医療が施されるが、それでも患者としては高リスクのカテゴリーに入る。太り過ぎ、高齢、男性という3つは死亡リスクを高める要因だ。一方で「ロング・コビッド」と呼ばれる症状の長期化に苦しむ患者の症例も増えている。これは倦怠感や体調不良が、感染時の症状や当初の感染期間をはるかに超えて続く状態である。英国ではジョンソン首相が回復後も倦怠感に苦しんでいると伝えられ、その活力のレベルは新型コロナウイルス感染前に比べてはるかに低い。 ジョンソン氏、ボルソナロ氏に続くトランプ氏の感染は、英国、ブラジル、米国の3カ国のコロナ対応が粗雑だったことを際立たせた。いずれのリーダーもウイルスのリスクを軽視し、対応措置が遅れ、国民の信頼の醸成に失敗した。政治のリーダーシップの拙さが、各国の死亡率や、経済不振、法規制の混乱に反映し、政治のリーダーシップの信頼が最も求められている時に、その信頼を完全に失った。新型コロナウイルスの政治問題化が最も顕著に見られるのは米国だろう。トランプ氏は、共和党との対比で民主党の首長が行政を運営する都市や州の失敗を強調して、ウイルス感染拡大を露骨に政治問題化した。コーネル大学の最近の調査によると、トランプ氏は種々の奇妙な治療法を宣伝したり、ウイルスに関する科学的妥当性のない推測をしたりして、コロナウイルスに関する誤情報の最大の増幅役になったという。消毒剤の注射を覚えているだろうか。紫外線の治療はどうだろう。抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンやビタミンD治療もある。いずれも新型コロナウイルスに関する確かな医学的根拠はない。米国と英国には優れた医療施設と研究資源があるのに、状況への対応があまりひどかったのは特に残念なことだ。米国や英国には、パンデミックへの対応について世界各国の政府に助言した専門家がいるにもかかわらず、その助言や提唱された準備態勢は自国では無視された。こうした政治の混乱は、在宅や病院でパンデミックの闘いに命をかけている何百万人ものケアワーカーに対する侮辱である。 ◆「中国の疫病」と中華帝国 大統領選候補者の討論会で、トランプ氏は「中国の疫病」にあらためて言及し、米国で広がる医療危機の責任を中国だけに負わせた。これはトランプ氏の支持基盤にアピールする内容であり、実際に中国に関して非難すべきことは多いが、中国の指導者らはトランプ氏の不運を笑い、乾杯しているに違いない。中国の指導者は誰も新型コロナウイルスに感染したと伝えられていない上、トランプ氏の陽性が判明したのはちょうど中国の長い国慶節の休日期間中で、パンデミックの最初のシーズンを確実に克服した中国の国内で何千万人もの中国人が自由に旅行したり動き回ったりしている時期だった。このような運命の違いは、自分が選んだ道は中国以外で提供される何よりも優れているという習近平氏の自信を強めるだけだ。もちろん、中国の上層指導部は国内の一般の人々に比べて、環境面、医療面、栄養面で特別な暮らしをしていることには留意すべきである。党の上層幹部は、特別な専用農場でつくられた有機食品の恩恵にあずかり、最先端の特別な医療施設を利用し、さらには室内の空気はフィルターをかけて浄化されている。彼らはまさしく特別な環境で暮らしている。 しかし、これら中南海の指導者らの自己満足は長続きしないだろう。トランプ氏は、コロナ感染で中国との闘いにあらためて勇気を強めるだけだ。数週間後に迫る大統領選挙でトランプ氏は負けるかもしれないが、それでも中国に対する米国の反発は変わらない。習近平氏は中国における改革と開放の時代についに終止符を打ったが、同様に米国の対中関与の道も切り替わった。これは今後数十年続くだろう。トランプ氏はこの4年間で米国の政治を揺さぶり、何十年も続いてきた中国に対する協調的な関与の在り方を変えた。意味のない空騒ぎ、侮辱、衝動的な攻撃は、すべてこのトランプという人物の一面だが、中国を脅威として扱っているという点において彼は正しい。トランプ氏は中国学者ではないが、中国共産党が自らをどう語っているかを見るだけで、彼らが「西側」およびその開かれた社会を支える価値を軽蔑していることを理解する。習近平氏はそうした価値観は中国社会には存在しないと主張している。自由なメディア、人権、開かれた社会、個人の自由、独立した調査と研究、信教の自由をすべて習氏は拒否しており、代わりに全員が党の意思に従い身を捧げなければならない。全員が党に奉仕しなければならない。 「新型コロナと米大統領選(2)」へ続く。 写真:AP/アフロ ※1:https://grici.or.jp/ 《RS》