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新型コロナと自然災害との複合災害リスクの高い日本

2020/5/21 15:27 FISCO
*15:27JST 新型コロナと自然災害との複合災害リスクの高い日本 欧州における新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化し、イタリアでの医療崩壊が指摘されていたこともあり、3月22日にクロアチアで発生したマグニチュード5.4の地震は、クロアチアでの感染爆発、医療崩壊という最悪のシナリオを予想させた。幸い医療施設への地震の影響は限定的であったことと、感染対策を考慮したクロアチア政府の被災者救済により、悲劇的な状況は回避されたが、感染症対策が優先されているこの時に自然災害が発生することへの深刻な脅威が改めて想起された。 4つの大きなプレートが交差している場所に位置し、台風の通り道にもなっている日本でもこれまで多くの自然災害が発生してきた。ベルギーのルーヴァン・カトリック大学災害疫学研究センター(CRED)が作成している国際災害データベースの統計によれば、1900年から2019年までに日本で発生した自然災害は365件で、世界で発生した自然災害の2.4%を占めている。これは、韓国の約3倍、北朝鮮の約8倍に相当する。また、件数では中国の955件の3分の1ではあるが、中国の国土面積が日本の25倍であることを考慮すれば、日本の自然災害の多さは際立っている。日本で発生した自然災害区分の発生回数では、多い順に台風などの暴風災害183件、地震関連災害67件、洪水災害56件となっており、地滑り災害22件、火山活動災害16件が続く。 国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)が2011年から発表している「世界リスクレポート」においても、日本が自然災害の脅威に直面していることが示されている。このレポートは、各国が自然災害から受ける影響リスクを、「自然災害の脅威にさらされている度合い」と「自然災害に対する脆弱性」とによって指数化している。2016年のレポートによれば、日本の脅威への露出度は45.91%と、バヌアツ、トンガ、フィリピンに続いて世界4位となっている。 このように常に自然災害の脅威と共存してきた日本であるが、世界的な気候変動の影響もあり、発生する台風などの暴風災害の影響が増大する傾向が見え始めている。1990年代に入ってから1年間に発生する暴風災害件数の平均は、データがある1912年~1989年の平均の3.3倍になる。同じ時期の比較で、負傷者は11.2倍、被害額は30.3倍にもなっている。 死者数は逆に0.07倍と減っており、災害への対応能力の向上や医療の発達が影響しているものと考えられる。世界リスクレポートでも、インフラや住宅の状況に基づく「災害の受けやすさ」、政府の対応能力や医療体制に基づく「災害への対処能力」、教育状況などに基づく「災害への適応能力」の3つの要素で評価される「自然災害への脆弱性」では、日本は高い評価を受けている。 日本では8月頃から台風の上陸が本格化する。5月13日に気象庁が発表した台風1号は早々に熱帯低気圧になり日本に大きな影響を与えることはなかったが、2019年の9月と10月に台風15号と台風19号によって大きな被害が発生したことは記憶に新しい。特に台風15号は関東地方に上陸した台風としては観測史上最強クラスの勢力だったため、千葉県を中心として7万棟を超える建物が被害を受け、93万戸が停電した。2018年の6月28日から7月8日にかけての西日本豪雨も思い起こされるところだ。 このような状況が新型コロナウイルスとの戦いの中で発生すれば、懸命に治療に取り組んでいる医療関連施設に大きな影響を与える可能性は否定できない。厚生労働省の発表によれば、5月20日時点で入院中を含めて入院治療が必要な患者は全国で3,165人となっている。NHKが調査した5月11日時点で用意されているベッド数の使用状況では、北海道が63.8%と最も高い一方で、東京都が48.9%、石川県で45.3%とようやく5割を下回る状況となり、医療崩壊への懸念が和らぎつつあるところである。 防災に関わる複数の学会で構成される「防災学術連携体」が、5月1日に発出した「市民への緊急メッセージ」では、感染症と自然災害の複合災害発生リスクが高まっていることが指摘されている。この中では、4つのプレートの衝突部にある日本列島の特性から、突然発生する大地震の危険性は常に存在し、これから訪れる梅雨による大雨や、夏から秋にかけて発生する台風など、これからの時期に特有の自然災害への備えが重要であるとされている。また、これらの災害が発生した場合の避難においても、感染リスクへの考慮が必要であることも強調されている。さらに、気象庁の予報では平年よりも気温が高くなることから、熱中症対策の必要性にも言及している。これらの自然災害は、新型コロナウイルスとの複合だけではなく、それぞれが同時に発生する危険性も当然有している。 新型コロナウイルスの治療薬の普及やワクチン開発には時間がかかると見られることから、新型コロナウイルスとの戦いは、長期化する可能性が高い。感染状況に沈静化の兆しが出始めてはいるものの、感染拡大第2波の危険性は指摘され続けている。今のうちに、複合災害への備えを固めておくことが求められよう。 サンタフェ総研上席研究員 米内 修防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。 《SI》