CANBAS Research Memo(2):創薬バイオベンチャーとして、“山あり谷あり”の活動も着実に進化と成長
2018/11/8 15:02
FISCO
*15:02JST CANBAS Research Memo(2):創薬バイオベンチャーとして、“山あり谷あり”の活動も着実に進化と成長
■会社概要
1. 会社沿革
1999年、産学官共同の研究開発を支援する「ミレニアム・プロジェクト」発足を期に、創業メンバー(名古屋市立大学と藤田保健衛生大学の研究者)で大学発の創薬バイオベンチャーを立ち上げた。当初は補助金を事業資金に大学との共同開発を進め、新薬ライセンスアウトによる収益確保を見込んでいたが、補助金が受けられず、いきなり暗礁に乗り上げた。そこで大学に頼らない道を選択し、独立系ベンチャーキャピタルから投資を受け、同時に外部から経営人材も参画することになり、本格的に研究開発を取り組める経営環境が少しずつ整っていった。2009年に東証マザーズに上場を果たし、研究開発や臨床試験の研究開発投資のための資金調達もでき、順風満帆の門出となったが、2010年に武田薬品工業との提携終了、2013年には先行パイプラインCBP501の非小細胞肺がんに対する臨床第2相試験で主要評価項目を達成できず、開発に黄色信号がともる。
少数精鋭の創薬バイオベンチャーであるが、他社にはないユニークな強みを有する
2. キャンバス<4575>の特徴と強み
(1) 基礎研究と臨床開発一体による抗がん剤研究開発ソリューション力
第1の強みは、基礎研究と臨床開発一体による抗がん剤研究開発ソリューション力である。創薬プロセスにおいて、臨床試験で得られた解析データが臨床開発チームから基礎研究チームへフィードバックされ次の研究開発に生かされている。臨床データをもとにがん細胞と正常細胞に何が起きているのか解明され新たな気付きや仮説づくりに反映される。その結果、自前で新しい臨床試験計画を立案することができる。そのような創薬プロセスサイクルを俊敏かつ柔軟な形でマネジメントできている。少数精鋭の研究開発エキスパート集団だからこそできることと言えるだろう。
(2) 独自の創薬基盤技術(創薬エンジン)を確立、さらに進化
第2の強みは、特定領域に絞り込んだ創薬を自社独自の創薬基盤技術(「創薬エンジン」とも呼ぶ)をもとに技術とプロダクトの両方を自社で創出できることである。創薬プラットフォームを持たず開発途上の化合物を外部から導入して一定の開発ののちに製薬企業へ導出する企業とは一線を画す。
創薬基盤技術は「細胞表現型スクリーニング」、「化合物の最適化」、並びに「作用メカニズム解析」からなる。
同社独自の創薬アプローチで「大部分のがん細胞の細胞周期(細胞分裂に至る過程)が正常細胞と異なること」に着目しており、「細胞表現型スクリーニング」は、フローサイトメーター(分析装置)でDNA量を測定し、細胞群の細胞周期分布分析とその前処理や分析結果に関する工夫・ノウハウを指している。
また、同社では一般的な分子標的スクリーニングと異なり、未知のものを含む様々な作用メカニズムの薬剤候補化合物(正常細胞に影響が少なくがん細胞に作用するヒット化合物)を探索している。
「化合物の最適化」は、ヒット化合物の分子構造を少しずつ変化させ、初期スクリーニングで獲得した化合物をより最適なもの(抗がん活性の強いもの、副作用の抑制されたものなど)に改良する技術である。
「作用メカニズム解析」は、最適化へのフィードバック、前臨床試験や臨床試験の設計へフィードバックし成功確率を高めるための有効な技術である。
(3) ビジネス戦略と臨床開発現場を知り尽くした科学顧問のアドバイスと支援
最後の強みは、ビジネス分野、基礎研究分野、臨床分野の第一人者であるスーパー・エキスパートチームを有することである。
<科学顧問会議メンバー>
a) Daniel D. Von Hoff, M.D., F.A.C.P.
Translational Genomics Research Institute (TGen) フィジシャン・イン・チーフ、特別教授
Mayo Clinic 教授
Honorhealth Research Institute チーフサイエンティフィックオフィサー
US Oncology メディカルディレクター・オブ・リサーチ、チーフサイエンティフィックオフィサー
元FDA Oncology Drug Advisory Committee (ODAC)メンバー
b) Donald W. Kufe, M.D.
ハーバード大学医学部教授
ダナファーバーがん研究所副所長(臨床第1相試験ディレクター及び臨床プログラムリーダー)
同社は2002年3月に、社内に「科学顧問会議」を組成した。現在科学顧問会議(SAB)メンバーは上記の2名であり、組成以来、科学顧問として大きな役割を担っている。Daniel D. Von Hoff氏は、アリゾナがんセンター教授、前所長であり、アメリカがん学会会長、アメリカがん治療学会会長を歴任した著名ながん研究者である。また、Von Hoff氏は、これまで30年以上にわたって200種類以上の抗がん剤の臨床試験に関わってきており、さらに、創薬ビジネスの立ち上げにも実績がある。同社では近年、臨床開発に軸足が移り、Von Hoff氏がメインアドバイザーとなっている。
彼らは、最新の抗がん剤論文に精通し、開発・臨床実務まで豊富な経験と実績を有する抗がん剤研究のエキスパートでビジネスプロフェッショナルである。ネズミの静脈注射での注意点といった細かい実験方法から臨床開発、ビジネスアライアンスに至るまで、持てるすべてのノウハウを同社の研究・開発に注入してきた。また、他の誰もできないことまでアドバイス・支援してくれる。例えば創業間もない頃には、第三者割り当て増資でベンチャーキャピタルに対して、同社の開発テーマの有効性を説き、出資の働きかけを促している。また、有望な欧米大手製薬企業のエグゼクティブの仲介もしているようだ。
これだけのアドバイス・支援のできる顧問・アドバイザーを他の創薬ベンチャーであまり見たことがない。少数精鋭の研究者集団である同社には、強力なケイパビリティ(中核組織能力)を担っていると言っても過言ではない。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 清水啓司)
《MH》