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『国家九条』― 厳しい規制とリスク防止をめざす、中国資本市場のための新たなガイドライン(1)【中国問題グローバル研究所】
2024/5/7 10:26
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*10:26JST 『国家九条』― 厳しい規制とリスク防止をめざす、中国資本市場のための新たなガイドライン(1)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信している(※1)陳建甫博士の考察を2回に渡ってお届けする。 中国国務院は先頃、「資本市場の監督強化、リスク防止、質の高い発展を促進する意見」、いわゆる新『国家九条』を発表した。前回の2014年通達から10年を経たタイミングで発表された今回の通達は、2004年の通達から続く一連の流れにおいて重要な節目にあたる。中国を取り巻く現在の経済状況にあって、これら新たなガイドラインは資本市場の指導という点に特化した国務院指令として、極めて重要な意味合いを持っている。 中国金融市場はさまざまな課題に直面しており、新たなガイドラインを手掛かりとした断固たる措置が求められている。経済成長のスピードが鈍化してマクロ経済のファンダメンタルズに下方圧力がかかり、経済運営における不確実性も高まっている。昨今の不動産市場の不安定ぶりによって市場心理のさらなる悪化への懸念が高まるとともに、国際資本市場に悪影響が及ぶことへの不安が国内における混乱の引き金となるおそれがある。さらに、土地譲渡益の大幅減少が地方政府の債務急増に拍車をかけ、債務不履行リスクも高まっている。 こうした状況での新『国家九条』発表は、低迷する金融市場の刺激と体系的リスクへの対処に中国政府が本気で取り組もうとしていることを知らしめるものだ。ガイドラインは監督強化、リスク防止、質の高い発展を促進する形で、中国資本市場に自信を植え付け、安定性を高め、持続可能な成長を促すことを目指している。 今回改訂された序文は、新『国家九条』発表にまつわる詳細な背景情報を伝えるとともに、中国金融市場が直面する課題への取り組みが重要な急務であることを強調している。 新『国家九条』政策の注目点 同政策は、中国資本市場の強化を目的としたいくつかの重要な戦略的取り組みを柱としている。第1に、「両会」を受けて、中央レベルでの政策調整を一致団結して実行する、としている。中央での協調努力に重点を置いていることからも、さまざまな規制努力を整合させ、団結したアプローチによる市場監督を促そうという政府の本気度が見て取れる。 第2に、新『国家九条』では、違法行為コストを顕著に引き上げ、株式ファンドを大幅増加させるとしている。こちらの措置は、違法行為を抑止しつつ法令順守と責任ある投資慣行を奨励することにより、市場の健全性を高め投資家からの信頼を強化しようというものだ。 第3に、新規株式公開(IPO)、上場廃止、配当といった重要分野に的を絞っている。これら市場運営の要に注目し、資本市場のエコシステムにおける透明性、効率性、公平性を確保するのが目的である。 第4に、継続的改善や進化する市場力学への適応をめざす姿勢を反映させる形で、関連する評価基準の強化に向けた協調努力が盛り込まれている。『国家九条』というこの反復的なアプローチは、過去繰り返し打ち出された『国家九条』政策で得られた歴史的遺産を土台として、資本市場の現状ならではの課題や機会に対応している。 「安定した発展」や「健全な発展」を優先していた過去の『国家九条』とは対照的に、新『国家九条』では「厳格な監督・管理」に重点が置かれている。こうした戦略的転換は、リスク軽減と規制監督に対する積極的な姿勢を印象付けるものであり、市場の安定と健全性の保護が不可欠である点を反映している。 新『国家九条』の実施については、株式上場から上場廃止までの一連のプロセスをクローズドループとする形での発行者管理、機関投資家に対する監督強化、アルゴリズム取引活動への規制強化による市場の公正性維持などの措置を盛り込んだ包括的なアプローチとなっている。 指令の遂行にあたり、中国証券監督管理委員会(証監会、CSRC)では規制案を発表、また証券取引所では業務規則の見直しを行い、強固な規制を確立するための土台を用意した。こうした協調努力からも、集約的・効果的な政策エコシステム確立を目指そうとする強い意志が見て取れる。 『国家九条』は短期目標と長期目標を織り込んだ体系的なものであり、包括的な戦略を実施するものだとする証監会主席の呉清氏の表明も、これら政策イニシアチブを支える戦略的ビジョンを強調している。現在、「1+N」という政策体制の整備が広く進められているが、ここでの「1」とは「指導意見」を指し、「N」とは資本市場の基盤およびガバナンスの強化に向けた取り組みを後押しする、さまざまな管理規則を指す。 新『国家九条』の実施にあたって、証監会はいくつかの規則草案を発表した。証券取引所側でも業務規則の見直しを行い、「1+N+X」政策体制の確立を着々と進めている。 「N」が表す範囲は、今後も継続的に拡大すると見られている。現時点では主に、上場後の監視、株式発行の監視、上場企業の監視、証券会社の監視、取引の監視、上場審査、大型の資本再構築の審査、株主や取締役の持株率引き下げといった領域に重点が置かれている。つまり、「基盤・ガバナンスの強化」を旨としている。証監会では6つの政策について、また上海、深セン、北京の証券取引所では同時に19の管理規則について意見を求めており、合計すると政策数にして25に及んでいる。 資本市場の厳格管理 『国家九条』には、資本市場の質の高い発展を促進するためには不可欠となる5つの必須原則を具体化した、厳格なガバナンスを遵守する旨も盛り込まれている。5つの原則として、党の指導への揺るぎない忠誠、人民の福祉を優先する金融慣行の実施、監督ならびにリスク防止メカニズムの包括的強化、改革のさらなる深化、弾力性のある実体経済と現代産業システム構築への献身的な奉仕が挙げられている。 『国家九条』における重点項目の1つが、資本市場での株式発行ならびに上場のための厳格な参入要件の確立である。この戦略的方向性は、いくつかの重要な側面に的を絞りながら、上場をめざす企業に課されるハードルを上げることを意図している。その第1が、科学技術革新委員会の評価基準の改善と並んで行われる、メインボードとChiNext(チャイネクスト)ボード両方の上場基準強化に向けた協調的な努力である。特に、国家発展改革委員会は3月15日、上場基準の引き上げならびに評価基準の強化を目的とした具体的な措置を発表している。これらの措置は、上海証券取引所と深セン証券取引所に対して、上場規則を改正し、特定の財務指標を緩やかに引き上げ、総合的な評価基準を充実させ、成長段階や業種、規模の異なる企業が適切な市場区分に上場するための後押しをするよう指示している。 第2に、『国家九条』では株式発行から企業上場まで終始責任を持って行うことの重要性を強調している。これは、審査プロセスにおける取引所の責任追跡性に改めて重点を置くとともに、発行者の主な責任や仲介機関が門番として果たすべき義務が強化されることを意味している。仲介機関は、キャッシュフローの検証、顧客とサプライヤーの関係の包括的なチェック、財務データの正確性と業務実態の忠実な提示を保証するための立ち入り検査など、厳格な方法を採用することが義務付けられている。こうした要件は審査プロセスにおける重要な精査項目とみなされており、上場プロセスにおいて開示される情報の完全性と信頼性を保証するものだ。 第3に、『国家九条』では監視機構の有効性向上を優先させている。その一端として、新規株式公開(IPO)時の各段階における株価設定ならびに配分に対する監督の強化、情報開示慣行の強化、市場におけるさまざまな不正行為への対応、部門横断的な監督ならびに規制調整の強化、あらゆる形態の違反行為を取り締まるための厳格な措置の実施などが挙げられている。こうした努力は、市場参入者からの信頼を高め、投資家の利益を守り、市場の健全性と安定性の維持をめざすものである。 『国家九条』は、中国金融界の持続可能かつ質の高い発展を促進するためにも不可欠となる、透明性、責任追跡性、完全性を特徴とする資本市場環境を本気で育成するという姿勢を強調するものである。 「『国家九条』― 厳しい規制とリスク防止をめざす、中国資本市場のための新たなガイドライン(2)【中国問題グローバル研究所】」に続く。 写真: 中国 証券取引所と中国金融先物取引所 (※1)https://grici.or.jp/ 《CS》
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