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Covid-19の長く暗い影(1)【中国問題グローバル研究所】
2020/4/9 16:03
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*16:03JST Covid-19の長く暗い影(1)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページでも配信しているフレイザー・ハウイー氏の考察を2回にわたってお届けする。 ——— 「今回は違う」。この言葉は、金融や経済の世界で国や企業による不相応な行動を正当化するのに頻繁に使われてきた。状況は一般的なルールでは測れないと主張するための常套句である。しかし、Covid-19にはこの言葉が当てはまるようだ。事態は、世界の人々がこれまで経験してきた営みと根本的に異なっている。市場の動きであれ、経済的なダメージであれ、世界への影響であれ、かつてない状況である。 何か執筆しようとしても最新の情報を反映するのはほぼ不可能だ。感染者数や死亡者数、新たな対策が刻々と変化しているからだ。しかし、知り得ている限りでの背景をあらためて記述しておく価値はある。すなわち、2019年の12月あるいは早ければ11月の段階から、新型のコロナウイルスが動物から人にうつり、広がり始めた。12月の終わりごろまでには、このウイルスが重症性呼吸器症候群(SARS)のような症状を引き起こしていることを中国・武漢市の多くの医師が明らかにし、多くの研究所がその遺伝子配列の解析を急いだ。一定の情報が中国当局の指揮系統に伝えられて感染拡大を制御するための措置が取られ、情報は世界保健機関(WHO)と共有された。しかしその後に起きたのは、武漢市やその他の地域における医師への厳しい弾圧や、感染件数の完全なねつ造、公共の安全の意図的な無視だった。世界最大の規模で人の移動が起きる時期に発生したことは、ウイルスがすでに中国及び海外に広く拡散していることを意味した。 1月末までには中国の大部分がロックダウン(封鎖)されたが、すでに何十万人もの中国人が感染の発生地から中国全土や世界各地に動いており、無自覚のうちにウイルスを広げた。1月下旬までに2桁の国で感染者が報告された。中国が国土を封鎖し旅行制限を実施するのを世界は眺めていた。各国も中国に狙いを定めて旅行制限を実施したが、多くの地域ではすでにウイルスが拡散していた。 シンガポールや香港、韓国、台湾など一部の国・地域は早期に対策を講じた。SARSの経験もあり、感染者数の増加を抑制することができた。欧州と米国は危険信号を目にしていたものの、感染はアジアで封じ込められるだろうと考えた。それは誤りだった。米国の株式市場は2月に入っても高値を更新し続けた。 欧州と米国は感染拡大に対する行動と準備が遅れ、世界経済は現代では全く前例をみない試練に直面することになった。市場の低迷というだけでなく世界の活動の麻痺と急停止という意味において、先に経験した1987年の市場崩壊や2008年の世界金融危機でさえ、その広がりや深さは今回にとても及ぶものではない。ほぼ全ての航空会社が数字の上で破産状態になるだろう。誰も航空機を利用しなければゴーイング・コンサーン(継続企業)ではなくなる。ホテルやレストラン、娯楽施設は法令によって閉鎖されるか、国内外を問わず客がいないために空っぽになるか、いずれかだろう。経済への影響を予測しようと誰もが考える。現代経済の完全な活動停止と何十億人もの隔離強制を、確実性をもってモデル化することは誰にもできない。米国経済は30%、あるいは20%落ち込むのだろうか。誰も分からない。確かなのは、このウイルスの影響で大規模な経済混乱と数千万人の失業者が、この数ヵ月のうちに世界で発生するということだけだ。今後何週間にわたって恐ろしい失業データや倒産企業が続出するだろう。悪い経済指標が出るだけではなく、無数の個人や家族が影響を受ける。 米国市場は当初、ウイルスは中国だけに封じ込められると想定していたようだが、仮にそのシナリオの下であっても世界的な経済危機を迎えていただろう。世界2位の経済大国であり、ほぼあらゆる商品の最大の買い手である中国の動きが実質的に止まった。 このような中国を予想したアナリストのモデルは一つもない。都市や省がロックダウンされても中国経済は第1四半期に成長をみせると予想するアナリストもいた。しかしそれは、経済状況がすっかり変わってしまった実態をまったく認識していないことを示すにすぎなかった。あらゆる経済指標が年初から数ヵ月間で深刻な落ち込みを見せ、いかなる回復もなかなか進まないことが今ははっきりしている。中国人民銀行(PBOC)は、企業向けに融資を行う銀行を低利資金で支援する用意があるかもしれないが、明るい将来展望のある企業があるのだろうか。輸出企業が目の当たりにしているのは、世界経済の縮小とロックダウンである。中国経済の規模は、トウ小平氏が経済改革に着手して以来初めて縮小に転じている。政治的・個人的自由を制限する代わりに経済を成長させるという中国共産党と国民の根本的な取決めが崩れてしまった。そもそも感染症の拡大を直接招いたのが、共産党による統制の必要性と透明性の欠如だった。これが理由となって取決めは崩れたのだ。中国の経済減速を受け、米国との第1段階の貿易交渉合意の約束を中国が履行できるかどうかを疑問視する声も既に出ている。この問題はここ何ヵ月も話題に上っておらず、今後の交渉についても語られていない。中国が経済刺激策を打ってコロナウィルスによる不況を脱却できると考える人がいるなら、2020年の中国は2009年の中国とは違うことを指摘しておこう。中国は既に債務まみれであり、これ以上のインフラ投資を消化する余力は限られ、民間企業も打撃を受けて傷ついている中で、中国が経済的に世界を救うことはできない。 コロナウイルスとその経済への影響が不可分と実感され始めた3月初め、サウジアラビアがロシアを相手に原油市場で価格戦争を仕掛けることを決めた。これにより、供給主導によるとてつもない価格暴落を引き起こし、原油は1日に25%を超える幅で下落した。このような価格戦争は、金融市場では数週間にわたって大きなニュースになるところだが、今ではこのことさえCovid-19騒動にかき消されている。供給主導の価格崩壊に需要側からの崩壊も呼応している。飛行機は空を飛ばず、自動車は駐車したままで家のようだ。 中国は、すべての都市、省、そして国全体にわたり、厳しいロックダウンを先頭に立って実施し、世界は驚きと当惑をもってこれを傍観していた。現在では、ほぼすべての国で同様の措置が取られており、その成果や影響のレベルはまちまちである。しかし、共通しているのは経済的苦痛のレベルだ。コロナウイルスの影響は、数ヵ月の不況を起こすにとどまらず、世界経済全体に本格的な恐慌を引き起こしている。楽観的なアナリストらは、ロックダウン後の中国経済のV字型あるいはU字型の回復に言及した。市場を落ち着かせるため中央銀行が利下げするとか流動性を供給するとかいった期待は、今後何が待ち受けているかを理解していない者の当然の反応である。 「Covid-19の長く暗い影(2)【中国問題グローバル研究所】」へ続く 写真:ZUMA Press /アフロ ※1:https://grici.or.jp/ 《SI》
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