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米中の第1段階合意、待った割には中身がない(2)【中国問題グローバル研究所】

2020/2/10 15:53 FISCO
*15:53JST 米中の第1段階合意、待った割には中身がない(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。 ◇以下、フレイザー・ハウイー氏の考察「米中の第1段階合意、待った割には中身がない(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。 ——— 第1段階の合意は、むしろ盛り込まれなかったことが注目に値する。ファーウェイについては当然ながら言及はない。運命のいたずらか、最高財務責任者(CFO)の孟晩舟氏の身柄引き渡し裁判は合意署名後わずか数日で始まった。発端となった米国における容疑は、イランとの関係をめぐるビジネス慣行や、虚偽の開示、制裁回避の扶助に関するものだ。中国ではこれらの問題は何ら変わらないままだ。 中国は、香港や新疆ウイグル自治区などに関するより広範な人権問題に言及がなかったことを喜んでいるだろう。しかし、もし米国がこれらの問題に関する文言を挿入しようとしていたら、合意は成立しなかったはずだ。純粋かつ単純に貿易だけの合意だった。当面の緊張は緩和されるが、これらの問題はいずれも直ちには解消されず、米中関係における大きなとげとして残り続ける。当然ながらここで湧く疑問は、米中がこの程度の内容で合意するなら、なぜそれほど長い時間がかかったのか、という点だ。1年以上前に合意できなかった内容は実質的に一つもないのではないか。長期にわたる関税は、関係を変えたいという米国の明白な意思を中国に示したとはいえ、これまでの大声やツイート、騒ぎは大した結果をもたらさなかった。トランプ氏は、他の困難な課題をすべてやり遂げる決意を本当に持っているのだろうか。 米中間の大きな懸案の解決がほとんど進展していない中で、トランプ大統領が訪中に熱心な様子なのは心配だ。トランプ氏が香港に行きたいという大胆な発言をしたのであれば、香港におけるしかるべき民主化要求を支持する明確なシグナルになったはずだ。しかし、トランプ氏の香港訪問を中国は決して認めないだろう。もっとも、。同じ中国の西方では、100万人以上のウイグル人が収容施設に入れられ、完全な監視下に置かれているというのに、果たしてトランプ氏は北京を訪問して、大規模なパレードや旗を振った歓迎を受け入れてもよいのだろうか。自由世界の最有力指導者である米大統領をもてなすという名誉を習近平氏に与えながら、中国に対して毅然とした態度を取ることは難しいだろう。中国の国家政策は依然として国際的な規範に遠く及ばない中、米国は民主主義と基本的人権の擁護のため主張するリーダーでなければならない。 第1段階の合意で、中国は継続する数々の問題に対処するための時間を稼いだ。貿易戦争はもちろん中国にマイナスの影響を与えたが、全般的な減速は不良債権の増大が経済に重くのしかかっている結果だ。この状況は全く変わっておらず、最近の経済への外的ショックである武漢の新型肺炎が、さらに大きな問題を引き起こすだろう。GRICIは先月、今後10年に中国が直面する問題を検討したが、保健医療の問題は深刻な懸念事項だった。昨年の豚コレラ騒動で、畜産業および関連する報告や監視のレベルの貧弱さが明らかになったが、その繰り返しが今武漢で起きている。 中国社会の大部分は、システムにショックがない限り問題なく機能し続ける。武漢の新型肺炎は非常に顕著で重大なショックとなった。国の対応は2002年から2003年にかけて流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)の時よりはましだが、その対応や報告には依然として不信感が強い。このような混乱が中国の春節休暇の時期に発生したことは、感染拡大や経済への影響の深刻化を招く結果になるだろう。武漢の新型肺炎は、「人の企てを神が笑う」という昔からの警句をタイミングよく想起させる。国家主導の経済や追加購入の約束は、市場の現実や現場の実態に常に直面しなくてはならない。臨機応変に対処できる十分な柔軟性を持つことが、先進的な開放経済には不可欠である。状況が変化すれば政策も変更する必要がある。会議室の中にいる交渉担当者がいくら良かれと思っても、未来を支配することはできない。 中国と関係を持つことは現代世界の避けられない現実である。いかなる国も中国と縁を切ることはできないし、一帯一路構想であろうと南シナ海であろうと、中国の国内外の行動を無視することもできない。世界第2位の経済大国である中国との貿易は、そうした関係の一部であるはずだが、中国側は過去数十年にわたってその関係を巧みに利用・悪用してきた。関係や関わり方のリセットがまさに必要だった。中国にはまだ多くの重要な問題が残されているが、そうした問題の尺度として貿易赤字を用いるのは非常にお粗末で効果のない方法だ。今回の合意は少なくとも当面、資本市場やサプライチェーンの緊張をある程度緩和するが、米国ひいては世界と中国との非対称な関係や関わり方に適切に対処する効果はほとんどない。 企業や学術機関を通じた中国による知的財産権のスパイ行為や窃取は、依然として進行中の懸念である。中国自身の憲法の下でも違法とされる基本的人権の侵害が日常的に行われている。外国企業に対する不公平で偏向した扱いや国の傘下にある企業などへの補助金によって、中国の経済は動いている。第1段階の合意では、これらの問題に適切に対処することはできなかった。今後段階を重ねてさらに動きがあるとしても何年も先になると思われる。中国を巡る米国の政治家の姿勢は和らいではいない。ルビオ上院議員らは今回の合意文書で矛先を収めることはなく、米国の資本市場を利用しようとする中国企業に対する資本面の規制の厳格化をさらに求める動きを続けるだろう。 貿易戦争は一服したかもしれないが、もちろん終結はしていない。合意違反を非難する声が今後数カ月に出てくるはずで、言葉による攻撃は再び激しさを増すだろう。トランプ氏は、素晴らしい友人である習近平氏から間違いなく裏切られるだろう。もう1人の新たな親友、金正恩氏に裏切られたのと同じように。中国経済は依然難しい状況にあるが、一部で予想されるような崩壊はないかもしれない。しかし成長率が最小限にとどまり不良債権を処理し切れない中、打撃は何年にもわたり深刻になるだろう。武漢の新型肺炎拡大は、中国の保健医療システムが依然としてお粗末であり、報告や情報伝達はさらにお粗末であることをあらためて示している。中国の野望は今後数年で大きく潰えるだろうし、今回の一時的な休戦も経済の下支えや中国の変化にはほとんど効果がないだろう。それでも中国には根本的な変化が必要なのだ。しかし、外から押し付けられた合意では必要な変化は実現できない。中国と中国国民が、システム全体を通じた開放と説明責任を向上させるために必要な変化を求め、実現する必要がある。しかし、それは貿易合意の有無にかかわらず、これまで同様にずっと先のことのようである。 ※1:中国問題グローバル研究所 https://grici.or.jp/ この評論は2月3日に執筆 写真:新華社/アフロ 《SI》