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報道をどう読むか−軍事的観点からの一例【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

2021/2/1 10:44 FISCO
*10:44JST 報道をどう読むか−軍事的観点からの一例【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】 1月25日、日本の報道各社は台湾南西部の台湾防空識別圏に、中国軍用機が2日間にわたり合計28機飛行したことを伝えた。1日に10機以上は異例の規模であり、バイデン政権の国務省報道官も23日「台湾への軍事的、外交的、経済的な圧力を停止することを要請する」と強調している。 今回の中国軍機の飛行について、報道各社の解釈は「バイデン新政権発足に伴い、台湾への軍事的圧力を高め、新政権関係者及び台湾独立派に中国の不退転の決意を示すもの」というものが主流である。台湾国防省は、昨年1年間で380機以上の中国人民解放軍軍用機が台湾周辺を飛行したと伝えており、今回の飛行も中国による台湾への圧力とみることに不自然さは無い。 しかしながら、米インド太平洋軍がホームページで、原子力空母セオドル・ルーズベルト戦闘群(CSG : Carrier Strike Group)が、1月23日に南シナ海に入ったことを報じたことで、その景色が一変した。1月30日付産経新聞は、台湾国防省関係者の話として、中国軍機の行動は米空母への威嚇であった可能性が高いとの談話を公表した。1月23、24日に中国軍用機が飛行した海域は、ルーズベルトCSGが行動したと見られる付近である。CSG対応として2日間にわたり28機もの軍用機を派遣することは重大な挑発行為である。空母艦載機と近接した場合には、不足事態が生起し、米中間の緊張が一気に高まる可能性がある。 中国軍用機がどの様な意図を持って飛行したのかを解くカギは、軍用機の種類にある。1月23日に飛行した軍用機は、爆撃機8機、戦闘機4機及び対潜哨戒機1機である。爆撃機が攻撃任務を、戦闘機がその護衛というのが軍事常識にかなった解釈である。爆撃機が洋上の目標を標的とするのであれば、位置を捜索し、位置情報を爆撃機に伝達する偵察機が不可欠である。対潜哨戒機にその任務は果たせない。明らかにされている編成から判断すると、決められた地上目標への攻撃を訓練したと判断できる。空母を目標とした編成ではない。 1月24日の編成は、戦闘機が12機、対潜哨戒機が2機そして偵察機が1機である。もし空母艦載機との遭遇を視野に入れているのであれば、相手戦闘機の位置を早期に発見するレーダーを搭載した早期警戒管制機の存在が不可欠である。12機もの戦闘機が早期警戒管制機無しで洋上を飛行するということは、空で脅威に遭遇する可能性は無いと見ている証拠である。もちろん、台湾防空レーダーで捉えられない場所で早期警戒管制機が飛行していた可能性もあるが、戦闘機が台湾南西部まで飛行したことを考えると不自然である。偵察機1機はCSGの動静を探っていた可能性はあるが、戦闘機と対潜哨戒機は別の任務と考えるのが自然であろう。米インド太平洋軍は声明で「米海軍の艦艇や空母打撃軍を脅威にさらすようなことはなかった」としている。中国軍機の行動が空母を標的とした攻撃訓練ではなかったということであろう。それならば、予定されていたとは言え、なぜ米空母周辺の空域に、12機もの戦闘機を飛ばし緊張感を高めるような行動をしたのであろうか。 上記疑問へは、「ルーズベルトCSGが南シナ海に入った事に気が付いていなかった」という回答が一番しっくりくるだろう。中国解放軍報によると、1月25日には米報道官の中国を批判するコメントには、中国の内政問題であり、台湾独立に反対するという前提で、台湾当局と平和的な話し合いを行うと回答している。しかしながら、1月26日には、台湾周辺における軍用機の飛行は、海外勢力が中国国内問題に干渉することへの警告だと言い方を変えてきている。1月25日には米空母が南シナ海で行動中であることを知らなった可能性がある。中国は南シナ海における域外国の行動は常に把握し、適切な対応行動をとっているとしているが、米空母のような大型目標でさえ、探知することができない場合があるという弱点を曝した可能性も考えられる。 報道を見る場合、どうしても認知バイアスに陥り、周囲の解釈や従前の見方を踏襲しがちになる。このようなバイアスを防ぐためには、国外を含む複数のメディアを確認することが大事であるが、もう一歩進んでそれぞれの専門分野の知見を得て分析すると、今まで見えていなかったことが明らかになる可能性がある。 情報通信技術の発達により、だれもが情報発信ができる時代となってきた。中には、不確実な情報だけではなく、悪意を持った人間が誤った情報を発信するケースも増えている。自らのフィルターで情報を取捨選択しなければならない時代となってきたことを自覚すべきであろう。 サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄 防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。 提供:防衛省/ロイター/アフロ 《RS》