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ソロモン諸島が中国の軍事拠点に!ウクライナ紛争の陰で「南太平洋に触手を伸ばす」中国のもくろみ【実業之日本フォーラム】
2022/4/8 15:41
FISCO
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*15:41JST ソロモン諸島が中国の軍事拠点に!ウクライナ紛争の陰で「南太平洋に触手を伸ばす」中国のもくろみ【実業之日本フォーラム】 ● 中国とソロモン諸島が「安保協定締結」 ソロモン諸島は2019年9月に台湾と断交し、中国と正式に国交を樹立した。同じ月に、ソロモン諸島のセントラル州は、中国国営の中国森田企業集団にツラギ島全体を貸し出す契約を結んだことが明らかにされた。この契約に対するオーストラリアからの強い反発を受け、ソロモン諸島のジョン・ムリア司法長官は「中央政府の合意を得ていない契約であり、無効である」と述べた。 しかしながら、中国国有インフラ企業の中国中鉄はソロモン諸島のゴールドリッジ金鉱山採掘プロジェクトを8億2,500万ドルで落札したことが伝えられており、同国への中国の経済進出が進んでいる。 そのような中で、中国外務省は今年3月31日にソロモン諸島と2国間安全保障協定に基本合意したことを発表し、注目を集めている。 3月31日付中国共産党機関紙Global Timesは、「太平洋諸国は国際協力の大きな舞台であり、特定の国の裏庭でもなければ、大国競争の場でもない」という中国外務省の王文彦報道官の言葉を伝えた上で、同国における暴動により中国企業が犠牲者となっているとし、安全保障協定の意義は治安維持であることを強調している。 4月1日、ソロモン政府は「政府は(中国に)軍事基地を提供することの安全保障上の影響をよく理解しており、そのようなことが起こることを見過ごすほど不注意ではない」とのステートメントを公表しているものの、ソロモン政府及び王報道官の言葉を額面どおりに受け取ることはできない。 4月1日付米外交専門誌Diplomatによると、合意草案には「社会秩序の維持を支援するために」警察、軍人及びその他兵力を派遣する事ができるとされている。これらの兵力派出のために海軍艦艇を派遣することは、最近南太平洋における活動を活発化させる中国海軍艦艇の行動を見る限り、火を見るより明らかである。基地の提供が無くても、中国の軍事的プレゼンスが拡大することは間違いない。 ● ウクライナ侵略での「ロシアの言い分」と似ている… オーストラリアは、2020年に「国防戦略の見直し(NDSU : National Defense Strategy Update)」を公表している。その中で、オーストラリア軍の焦点となる地域について、「オーストラリアの近傍地域(immediate region)」とし、東インド洋、東南アジアそして南太平洋を具体的地域として挙げている。特に南太平洋は伝統的にオーストラリアが影響力を行使してきた地域であり、ここに中国が影響力を拡大してくることには強い警戒感を示すものと考えられる。 ソロモン諸島と安全保障条約を結ぶオーストラリアは、昨年11月に生起した暴動鎮圧のため、ソロモン諸島政府の要請に基づき100人以上の軍及び警察の治安維持部隊を派遣している。4月1日にオーストラリアのダットン国防相は、ソロモンの主権を尊重するとした上で、今回の安全保障協定締結は南太平洋における中国の積極的な行動の一環として懸念を示した。 ニュージーランドが昨年12月に公表した国防報告書も「インド太平洋地域での中国の積極的な利益追求により安全保障上の脅威が高まっている」としており、ニュージーランドが直面する可能性のある最大の脅威の一つとして、価値観や安全保障上の利益を共有しない国が太平洋に軍事基地を建設することを挙げている。中国とソロモン諸島の安全保障協定締結は、ニュージーランドが脅威と認識することは間違いない。 南太平洋の島嶼国家に対し、中国が経済を梃に関係を強化しつつあることは従来から指摘されてきた。今回のソロモン諸島との安全保障協定締結は、さらに一歩進んで中国の権益保護のために海外で軍を使用する足掛かりを構築するものである。今後、同様の動きが各地で広がる可能性もあるだろう。 このことは、ロシアがウクライナに対し、ロシア人保護を名目に侵攻した姿とダブって見える。オーストラリアとの対立が激化することは必至であり、どちらかと言えば中国寄りであったニュージーランドとの関係悪化も考えられる。 ● 「政府の統治能力が低い」国々に手を伸ばす中国、ソロモン諸島は危ない状態 一方で、中国のソロモン諸島における軍事的プレゼンス拡大が順調に行われるかどうかには疑問が残る。 昨年11月にソロモン諸島の首都ホニアラで生起した反政府暴動は、民族対立に加え、2019年の台湾断交に踏み切ったソガバレ現首相への不満があるとされている。略奪や放火のあった地域は中国人街であったことは、中国の経済進出を快く思わない勢力が暴動の中心にいたことを示している。今後同様の暴動が生起した場合、中国人の警察や軍人がこれの鎮圧にあたることは、火に油を注ぐようなものであろう。 さらに、オーストラリアが暴動鎮圧のため警察及び軍を派遣し、中国の警察や軍と対峙する複雑な状況が生起する可能性もある。統治能力が必ずしも十分とは言えないソロモン諸島政府がこのような難しい舵取りをうまくこなせるとは思えない。 ロシアのウクライナ侵攻に伴い、世界のサプライチェーンが混乱する兆しを見せており、これが各国経済に与えるインパクトが懸念されている。ロシア軍のキーフ(キエフ)撤退で明らかとなったロシア軍の残虐行為は、ロシアへの経済制裁強化につながり、これが国際経済へのインパクトを増幅させると考えられる。そしてこのようなインパクトは、政府の統治能力が低い国に極端に出ることが多い。 すでに、ペルーのリマやスリランカのコロンボにおいて、物価高騰に伴うデモの発生が伝えられている。中国がこのような機会を利用して影響力を拡大してくることは十分に考えられ、今回の中国とソロモン諸島の安全保障協定はこのような流れの端緒となる可能性がある。 協定締結は国家の主権に属する問題であるが、その履行状況が周辺の安全保障に与える影響を考慮し、その推移を注意深く見守っていく必要があるだろう。 サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄 防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。 写真:AP/アフロ ■実業之日本フォーラムの3大特色 実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。 1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム ・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する ・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う 2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア ・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く ・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える 3)「ほめる」メディア ・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする 《FA》
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