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世界に普及拡大するP-8哨戒機【実業之日本フォーラム】

2021/7/19 8:58 FISCO
*08:58JST 世界に普及拡大するP-8哨戒機【実業之日本フォーラム】 2021年7月13日、ボーイング社はインド海軍に10機目の哨戒機P-8I(ネプチューン)を引き渡したと発表した。インド海軍向けのP-8Iには、インド海軍の要望により磁気探知装置(MAD:Magnetic Anomaly Detector)とマルチモード(イメージング、天候回避、ビーコンモード等)レーダーを搭載している。 米国政府は、フルスペックのP-8A(ポセイドン)の海外輸出を認めていなかった。そのため 、インド海軍向けP-8Iの電子装備は簡素化され、データリンクなど統合情報伝達システムは、インド国内のBEL社製を装備している。一方、オーストラリア、ニュージーランド、イギリスへ輸出される機体はフルスペックの仕様となっているようだが、UKUSA(United Kingdom-United States of America) 協定(米・英・豪・加・ニュージーランドの5カ国が加盟する通信・電波の傍受による情報集活動施設及び情報の共同使用の協定:通称ファイブ・アイズ)に参加していることと無縁ではなさそうだ。 P-8Aは、2004年6月に米海軍が採用を決定し、2012年3月に量産1号機が米海軍に引き渡されている。P-8Aは、ボーイング737-800の胴体と737-900の主翼を備え、CFM56-7BEというターボファンエンジン2基を搭載した、対潜水艦戦、対水上戦、偵察、監視等を行う多目的哨戒機である。全長は約39.5m、全幅約37.6m、全高約12.8m、搭乗員9名、巡航速度は時速約810km、上昇限度は約12,500m、航続距離は約8,300kmの性能を有し、米海軍には109機、豪空軍に14機、インド海軍に10機のほか英、独、加、韓国、ノルウェー、ニュージーランド軍など6カ国に約30機が配備されている。 2021年7月3日、ドイツ連邦国防省は、P-8Aを5機導入することを決定したと発表した。ドイツは、2035年の現用のP-3Cが運用期限を迎えるため、10年間の暫定措置としてP-8Aを選定したが、機体の耐用年数を考慮すると、2035年以降もこの機体を使用すると思われる。 ドイツは、ロシア潜水艦の脅威を強く認識し、低空低速飛行性能に優れている日本のP-1に強い関心を寄せていた。英仏のエアーショウ出展時に調査を行うとともに、国防省関係者が何度も来日し視察を重ねていた。P-1は調達コストが高く、ドイツにおいて短期間での「軍用機型式証明(新たに開発された航空機の型式ごとの設計、構造、強度、性能などが技術基準に適合するかどうか検査をして、国が定めた法律に基づいた基準に合格していることを証明するもの)の取得」が困難と判断したため、2020年9月、選定候補から取り下げたとのことである。P-8はボーイング社製であり、改めて「型式証明」の取得は不要との判断が働いたのかもしれない。 P-8は、米海軍、豪空軍、インド海軍等世界8カ国で約160機が配備されている。ロッキードマーチン社P-3は、1958年初飛行以来650機が世界各国で運用されたといわれている。今後各国でP-3の退役が続くと予想されることから、配備機数は更に増加すると考えられる。P-8は装備が一部手薄だと評価する声があるが、米海軍や豪空軍は、将来的にはMQ-4C「トライトン」などの無人機や「エコーボイジャー」などの無人潜水艇等との連携という運用構想を抱いているようだ。P-8は、民間航空機として、飛行場間を高速で高高度を効率よく飛行する仕様となっていたボーイング737の機体を採用している。そのため一般的には機体やエンジンの信頼性は、軍用機に比較し、十分に高いものの、哨戒機として作戦海域における低空低速飛行、塩害による経年劣化やバードストライク等の航空機運航上のリスクがあることを考慮すると、3発または4発のエンジンの装備が望ましいのではないだろうか。 一方、日本のP-1もP-3Cの後継機として海上自衛隊における哨戒任務を順調に継承し、その作戦遂行能力を向上させているようだ。2013年3月量産初号機が配備され、2020年には、24機が運用されている。 しかしながら、米、英、豪、印、韓国など同盟国、近隣の友好国等の哨戒機がほぼP-8に転換しているので、秘話通信、データリンクなどによる情報交換、各種作戦における共同連携要領の確立が極めて重要になってくる。米国とは十分に連携が実施出来ているが、他国P-8はスペックと連携要領が米国と異なるので、その相違を克服する必要性が生じている。そのためは、同盟国、友好国等とは各種共同訓練の機会を増やし、それらの訓練等において意思疎通を図り、共同連携の練度を向上させ、不具合を是正し、円滑に作戦が遂行できる態勢の構築を目指さなければならない。 サンタフェ総研上席研究員 將司 覚 防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。 写真:ロイター/アフロ ■実業之日本フォーラムの3大特色 実業之日本フォーラム( https://jitsunichi-forum.jp/ )では、以下の編集方針でサイト運営を進めてまいります。 1)「国益」を考える言論・研究プラットフォーム ・時代を動かすのは「志」、メディア企業の原点に回帰する ・国力・国富・国益という用語の基本的な定義づけを行う 2)地政学・地経学をバックボーンにしたメディア ・米中が織りなす新しい世界をストーリーとファクトで描く ・地政学・地経学の視点から日本を俯瞰的に捉える 3)「ほめる」メディア ・実業之日本社の創業者・増田義一の精神を受け継ぎ、事を成した人や新たな才能を世に紹介し、バックアップする 《RS》