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EUが年末の土壇場で英国や中国と合意(2)【中国問題グローバル研究所】

2021/1/20 11:54 FISCO
*11:54JST EUが年末の土壇場で英国や中国と合意(2)【中国問題グローバル研究所】 【中国問題グローバル研究所】は、中国の国際関係や経済などの現状、今後の動向について研究するグローバルシンクタンク。中国研究の第一人者である筑波大学名誉教授の遠藤 誉所長を中心として、トランプ政権の ”Committee on the Present Danger: China” の創設メンバーであるアーサー・ウォルドロン教授、北京郵電大学の孫 啓明教授、アナリストのフレイザー・ハウイー氏などが研究員として在籍している。関係各国から研究員を募り、中国問題を調査分析してひとつのプラットフォームを形成。考察をオンライン上のホームページ「中国問題グローバル研究所」(※1)にて配信している。 ◇以下、フレイザー・ハウイー氏の考察「EUが年末の土壇場で英国や中国と合意(2)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。 ——— ◆中国に対処する ブレグジットの結果が悪い方に出るのを回避できた英国は、国際社会での役割を果たそうと努める必要がある。EU加盟国としての英国は実際のところ、単一市場を推進するグループの中で主導的な役割を演じ、最もビジネスがしやすく経済がダイナミックな国の一つだとみなされていた。英国は今やその影響力を失い、新型コロナウイルスのパンデミックでは対応の誤りが続いて、先進国で最も大きな打撃を受けている国の一つとなっている。中国の政策に関して言えば、ブレグジット以前のデービッド・キャメロン政権による当時の政策や「ゴールデン・エラ(黄金時代)」という英中関係は完全に終わっており、今では代わりに「ゴールデン・エラー(黄金の誤り)」と呼ぶべきものである。香港のために声を上げるという点で、英国はこの1年間、驚くほど大きな役割を果たしてきた。最も重要な措置は、英国海外市民(BNO)旅券の保有者または有資格者の300万人以上の香港市民に英国の市民権取得の道を与える約束だった。英国政府の移民に対する強硬姿勢がブレグジットの理念の一部だったことを考えると、このような大胆なアプローチは予想外だった。言うまでもなく、この措置は中国を激怒させたし、またパンデミックに伴う旅行規制であらゆる人の国境を越えた移動は制限されている。中国がこれほど多くの人たちに物理的に香港を離れることを許可するかどうかは非常に疑わしいが、BNO旅券の発行件数は過去最多と報じられている。 これを思えば、英国は自らが世界に開かれていると考えるだろう。しかし、中国との貿易協定締結は、英国がこうした政策を一部後退させ、発言を大幅トーンダウンしない限り、遠い先の話となろう。英国は、貿易ブロックが支配する世界で新たな道を切り開く中で、国内に強い経済力を持たず、EUの経済力を活用することもできない。英国が国際的な役割を果たすことができないというわけではない。英国はなお多数の国際機関で高い地位を占めている。国連安全保障理事会の常任理事国であるほか、WHOの主要な資金拠出国であり、国内のパンデミック懸念で愚かにも削減されてはいるが国際開発援助の立派な実績もある。さらに英国の言語、文化、ソフトパワーは、依然として大きな影響力がある。世界的な金融センターとしてのロンドンの役割は今でも驚くべきものだろう。ロンドンはユーロ建て商品へのアクセスの一部は失ったが、欧州の他のいかなる都市もロンドンの代わりを務められるとは考えられない。パリとフランクフルトがその役割を引き継ぐと期待されるだろうが、決めてかかることはできない。パリの労働文化はロンドンとは大きく異なっており、フランクフルト市長は、住宅価格を押し上げ交通事情を悪化させるだけなので、銀行家が退去してやって来ることは望まないとこのほど発言している。世界的な役割を担う準備があることを示す発言では到底ない。 EUにとって状況は大きく異なる。わずか3ヵ月前のこのコラムでは、EUの対中強硬姿勢を取り上げた。トランプ氏のアプローチに嫌気がさしたEUは、中国の脅威の本質を十分に理解していないとはいえ、中国を競争相手と位置付け始め、従来の関与は機能していないと考えるようになった。バイデン次期大統領は、中国に関して民主主義国家が協調して対応する必要があると明言している。このため、米国の政権移行が起きる時に、長らく未決着だった中国とのCAIにEUが合意することは、そうした努力を阻害するように見える。 皮肉なことに、メルケル首相が投資協定をまとめている最中に、EUは次のような声明を発表した(※2)。 欧州連合は、張展氏と余文生氏に加え、ほかにも拘禁され有罪判決を受けている人権擁護活動家であるリ・ユハン、ホァン・チー、戈覚平、秦永敏、高智晟、イリハム・トフティ、タシ・ワンチュク、呉淦,、劉飛躍の各氏ら、および公共の利益のための報道活動に従事してきたすべての人たちの即時釈放を要求する。 これは、武漢でのパンデミックの発生の情報を発信しただけで罪に問われた張展氏に、懲役4年の判決が言い渡されたことに対する反応だった。中国は、パンデミック拡大の実情と政府の失策について報じた多数の市民ジャーナリストを逮捕したが、そのことは今ではすべて公式見解から削除されている。張氏らは処罰と矯正が必要な厄介者とみなされている。メルケル首相と習総書記の電話会談で張氏の窮状が注目されたとは考えにくい。 CAIの合意ですべて決着したわけではなく、今後は欧州議会がなお内容を吟味する必要があり、27の加盟国が正式に同意しなければならない。それには数ヵ月かかり、何らかの激しい議論を巻き起こすだろう。欧州のシンクタンクや中国専門家たちは、2020年末を期限とした合意はメルケル首相がすべて自らに課したものであることに懸念を表明したが、政治や経済のエリートたちはこれを推進すると決めていた。当然ながら、EUと中国の貿易に関してはこの協定自体ですべての問題を解決することはできないし、中国の約束は決して完璧なものではない。習体制を過去数年間にわたって見てきた者なら、国際的な約束とは関係なく自らの道を進む政権であることを知っている。経済界のロビー団体は、この合意によってEUの企業は米国企業と対等の立場となり、第1段階の米中貿易合意の約束と対等になると主張しているが、世界は当時よりも先に進んでいる。6年間にわたって議論してきたこのような重要な協定に今ここで結論を出すことは、過去1年間の中国の行動に対し意図的に目をつぶることを意味する。 EUが認めるかどうかはともかく、EUは今回の協定合意によって中国の指導者らに対し、新型コロナウイルス感染症について早い段階で情報を隠蔽していたことや、今も誤った情報が続いていることは問題ではないというシグナルを送ることになる。さらに、香港国家安全維持法の施行は問題ではなく、中国がオーストラリアの大麦、石炭、魚介類、ワインのボイコットを続けていることにも問題はなく、パンデミック中の中国のマスク外交も問題ではなく、新疆ウイグル自治区の少数民族の強制収容所への収容や強制労働も問題ではないというシグナルを送ることになる。EUのエリートたちは、経済はきれいに切り離して他の問題とは区別できると考えているようだが、何よりもオーストラリアの例がよく物語っている。オーストラリアにとって、中国への経済的依存は利益ではなく負担となってしまった。EUはすでに、劉暁波氏のノーベル賞を巡りノルウェー産サケが同じように標的になったのを見てきた。中国は政治と経済を区別しない。つまり、政治的優位を得るために経済的な影響力を繰り返し利用してきた。メルケル氏らはもちろんこのことを理解している。一方で、バイデン新政権が何らかの形でEUに制限を加えるのを防ごうと中国との協定を急いだのであれば、それも中国に関して足並みのそろった戦線を築くためには好ましい前触れとは思えない。 ただCAIには改善の余地がなく、こうしたマイナス面に対処できる可能性がある貿易協定はもう一切無理だと考えるのは、フェアではない。しかし同時に、欧州企業の利益を促進しようとする中で発表されたこの合意によって、大局が変わるわけでもない。中国は都合が悪いと分かると、意味を歪曲して協定に従わなくて済むようにするため、信じられないほどの創意と意志を幾度となく発揮してきた。 大方には意外だったが、2020年は中国にとって良い年になった。厳しいロックダウンによってウイルスの拡散をはっきりと食い止め、多くの先進国よりもはるかに早く通常の生活が広範囲に戻り、経済成長も回復、株式市場は力強く上昇した。 習総書記は、世界が依然ふらついているのを見て、誇りと自信を感じているに違いない。彼は自分や党に対するいかなる形の批判も受け入れる自信がない。経済も、国有企業だけでなく民間企業にも影響を与えているデフォルト(債務不履行)の増加を無視できるほど強くはなく、かつてないほど大規模な投入量で成長しているだけである。パンデミック以前から中国にあった問題は、パンデミックによって消えていないし解決もされていない。地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の合意とその数週間後のEUとのCAI合意で1年を締めくくったことは、中国に依然として強大な経済の牽引力があることを示している。誰もそれを否定できないし否定すべきでもない。中国との経済的関与は今日の世界では不可欠だが、EUは待っていればもっとうまく利用できたはずの影響力を無駄にしてしまった。中国との関与は終わったわけではない。バイデン政権はトランプ時代とはがらりと変わるだろう。EUと英国が力を合わせて中国に立ち向かうことが重要だ。米国、英国、EUの間に違いが見えたとしても、分断するよりも団結させるものの方がはるかに多い。しかし同時に、日本、韓国、オーストラリア、インドもないがしろにしてはならない。中国に関して、これらの国はすべて共通の懸念と関心を持っている。中国との関係の新たな章が始まろうとしており、同じような考え方を持った民主主義国家の協力と協調が不可欠である。 (写真:新華社/アフロ) ※1:https://grici.or.jp/ ※2:https://eeas.europa.eu/headquarters/headquarters-homepage/91048/china-statement-spokesperson-sentencing-journalists-lawyers-and-human-rights-defenders_en 《RS》